経営活動のなかで直面する課題には実にさまざまな方法でアプローチできますが、なかでも大きな効力が期待されるのが「TOC(Theory Of Constraints)」です。

TOCは「制約条件の理論」と呼ばれる生産管理手法のひとつです。

本来は工程間における制約(ボトルネック)を特定・強化し、ライン全体の生産量を増加させる手法ですが、この考え方は経営活動の意思決定プロセスやプロジェクトの工程にも反映できます。

そのため、TOCの考え方を自社のプロジェクト運営に生かしたいプロジェクトマネージャーの方も多いのではないでしょうか。

しかし、専門的な知識が必要なTOCをプロジェクトに反映させるのは簡単ではありません。

そこで本記事では、企業によるTOCの活用事例をご紹介します。他社の事例を参考にすることで、TOCの疑似体験が可能です。

結果として、プロジェクト運営におけるボトルネックを解消し、成果物の増加や納期遵守率の改善が見込めます。

TOCの成功事例6選

本章ではTOCを導入した企業の成功事例を6つご紹介します。

各企業の成功事例には、プロジェクトにおける重要なポイントのみがコンパクトにまとめられており、効率的に必要な情報をインプットできます

本章で紹介する事例は、当社ビーイングコンサルティングが実際にTOCの導入支援を行ったものであり、TOCを導入したいと思っている方々にとって参考になるはずです。

  1. シャープ株式会社
  2. マツダ株式会社
  3. 東芝デジタルソリューションズ株式会社
  4. オリンパス株式会社
  5. 昭和電工マテリアルズ株式会社(現 株式会社レゾナック)
  6. アルパイン株式会社

製造業を中心とした事例ですが、読者の方々の所属されている企業でも参考になるポイントが多数あるはずです。

事例をインプットする際は、自社ではどのように取り入れることができるか、といった観点で、事例の主人公を自社に置き変えてご覧いただくとより良い効果が得られることでしょう。

シャープ株式会社

シャープ株式会社は、電気通信機器や電気機器および電子応用機器などの製造・販売をおこなっている会社です。

2012年以降、出口の見えない企業変革に頭を抱えており、さまざまな改革策を実行するも売上高や利益は減少していました。

また、海外の競合他社との激しい競争を強いられており、変革を必要としていながら何から手を打ったらいいかわからない状態が続いていました。

このような状況下で、将来に向けた活動の継続に社員は不安を覚えたことで、弊社のコンサルティングの元、TOCを導入することを決意しました。

その結果、2016年1月よりマネジメント変革を始めて、2017年にはソフトウェア部門で開発リードタイムを大幅に削減することができました。

さらに、効率的なプロジェクト運用を行えるようになった結果、お客様からの指摘件数を20%削減でき、バグ収束タイミングを25%も前倒しでき、素晴らしい成果を上げました。

関連記事:【シャープ株式会社様】わずか6ヶ月間で30%の開発リードタイム短縮

マツダ株式会社

マツダ株式会社は、自動車や自動車の部品の製造・販売をおこなっている会社です。

2007年に企業変革や意識変革を実施するも定着せずに低迷状態が続いたことで、弊社のコンサルティングの元、TOCを導入することを決意しました。

その結果、パワートレイン開発本部長の支援のもとで草の根活動などをおこなったことで、プロジェクトの開発期間を50%短縮することに成功したのです。

今まで行っていた業務プロセスには大いに改善できる余地があった一方で、効率的なプロジェクト手法を大胆に取り入れるという決断をしたことも成功の秘訣と言えるでしょう。

また、パイロットプロジェクトでこれまで経験しなかった成功体験を積み重ねた結果、チームワークの最大化を実現しました。

関連記事:【マツダ株式会社様】開発期間50%短縮を実現

東芝デジタルソリューションズ株式会社

東芝デジタルソリューションズ株式会社は、東芝のIoTやAI・ICTソリューション事業を担っている会社です。

2015年に東芝の経営指標が変更されたことをきっかけに、従来手法の限界に直面しました。

今まで割けていた人や投資といったリソースがどんどん絞られている一方で、限られたリソースで成果を出さなければなりませんでした。

そこで従来の手法では大きな成果を期待できないことから、弊社のコンサルティングの元、TOCを導入することとなったのです。

結果として、POCにおけるリードタイムを40%短縮に成功し、全体導入における棚卸資産を68%削減できました。

さらには、製品リードタイムを41%短縮することに成功しました。

関連記事:【東芝デジタルソリューションズ株式会社様】完成品在庫68%削減

オリンパス株式会社

オリンパス株式会社は、医療や化学などの領域で精密機器を製造・販売するメーカーです。

同社は会社の規模も大きく、常に社内に多数のプロジェクトが同時並行に進んでいます。

しかし、それゆえにプロジェクトを円滑に進めるうえで複数の課題に悩まされていました。

例えば、現場と組織のマネジメントの認識が一致しておらず、プロジェクトの遅延が発生するような問題です。

そこで、課題の早期検知・対策のため、プロジェクトのリスクを最小限に抑えられるTOC/CCPMの導入を決意しました。

具体的には以下の3つ要素を視覚化し、現場マネジメントと組織マネジメントの認識一致を実現させています。

▼視覚化させた3つの要素:

  1. プロジェクトの目的
  2. プロジェクト計画の進捗状況
  3. プロジェクトの進捗状況と問題への対策状況

結果、プロジェクトマネージャーが個別のタスクしか把握できていなかった状態が、プロジェクト全体の進捗状況を正確に把握できるようになりました。

傾向グラフを用いて全体の進捗状況を可視化したのが大きな要因だったようです。

TOC/CCPMの導入によりタスクの遅延を最小限に抑え、課題に対する組織的な対策が可能になった好事例だといえます。

関連記事:【オリンパス様】 プロジェクト状況の見える化による問題への早期対策を実現

昭和電工マテリアルズ株式会社(現 株式会社レゾナック)

昭和電工マテリアリズ株式会社は電子材料、配線板材料、モビリティ部材、機能材料およびライフサイエンス関連製品の製造販売を行っている会社です。

同社の対応領域は広く、インフラにとどまらず、アプリケーション領域までカバーしています。

ただし、ハードウェアとソフトウェアでレイヤーが異なる多数のプロジェクトを、同時並行で進めるのは難しいものです。

同社でも同様に、異なる条件や制約の中でプロジェクトを管理することが求められ、その複雑さから納期の遅れや品質の担保に問題を抱えていました。

そこで、品質担保及びプロジェクトの工程を改善するためにCCPMの導入を決意します。

TOC/CCPMを導入しプロジェクトマネジメントを改革したことで、結果的に次の3つの効果が得られました。

  1. 納期の遅れが極端に減り、最終的に納期遵守率100%達成
  2. タスク管理が見直され、計画期間よりも実行期間のタスク処理時間が6.7%縮小
  3. 一部門だけではなく、会社組織として納期を遵守する意識が向上

関連記事:【昭和電工マテリアルズ様】プロジェクトの進捗状況を視覚化して納期遵守率を大幅アップ

アルパイン株式会社

アルパイン(ALPINE)株式会社は自動車メーカー向けにカーナビ製品を提供する会社です。

今回は、TOC/CCPMを導入し実際に効果を上げた、アルパインの情報システムの設計・開発を担当するアルパイン情報システム株式会社の事例をご紹介します。

同社もプロジェクトを推進するうえでさまざまな課題を抱えていました。

課題のなかには、スコープ縮小や納期遅れ、製品のリリース延期などが含まれており、TOC/CCPMの導入で改善をはかりました。

プロジェクトマネジメント改革の具体的な内容は次の通りです。

  1. 対象となる組織が小さくスモールスタートできたこと
    最初から全社や大規模にTOC/CCPMを導入するのではなく、スモールスタートで小さな成功を積み上げていった点に特徴があります。小さな部署から成功を積み重ねていくことで、リスクを抑え効果を上げることができました。
  2. マネジメント層からの強力なサポート体制
    マネジメントからの強力なバックアップを得られた点も特徴的です。実際に行うのは推進担当者ですが、その後押しをマネジメントや会社から得られたことでTOC/CCPM導入の推進剤となりました。
  3. 担当者の意図や思いがチームに浸透した点
    TOCを推進をしている担当者が会社や組織のためになると思い行動しても、周囲の人のもその意図が伝わらなければ意味がありません。その点、今回はマネジメント層だけではなく、周囲の実行するメンバーにもプロジェクトの意義を理解してもらえるようコミュニケーションを取り、その意識が伝わった点が成功要因として挙げられます。

関連記事:【アルパイン様】TOC/CCPM適用によりプロジェクト管理の課題を克服

TOCとは

TOCとは、制約を特定して制約に集中して改善することで、全体の業績向上を目指すマネジメント手法です。

現在から将来にわたって、企業が繁栄し続けることを目的としています。

従来の経営手法は、個別のプロセスを最適化することで、全体のパフォーマンス向上を目指すものです。

しかし、全体のパフォーマンスに影響を与えている制約条件を改善しない限り、全体のパフォーマンスが最適化されないという問題点がありました。

それに対し、TOCは制約と非制約を区別して制約条件を改善することで、全体のパフォーマンスを最適化することが可能です。

なお、TOCで制約条件を改善する流れは以下の通りです。

  1. 制約を見つける
  2. 制約を最大活用する方針を決める
  3. 制約以外のすべてをステップ2の決定に従属させる
  4. 制約を強化する
  5. 制約が解消したら惰性に気を付けてステップ①に戻る

TOCにおける制約の意味

TOCにおいて「制約」とは何を意味するのでしょうか。

TOCにおける「制約」とは、あるプロセス間に発生するボトルネックを意味しています。

ボトルネックはボトル(=瓶)の最も細い部分のことで、プロセスの各工程で最も生産能力が低い箇所を指します。

例えば、工場の生産ラインにA・B・Cというライン工がいると仮定します。

その中でBが最も作業効率が悪い場合、ボトルネックに該当します。

そこで、ライン工Bの作業効率を改善、すなわちボトルネックを強化することによって、ライン全体の成果物(生産量)の増加が見込めるでしょう。

ビジネスでのTOCの活用方法

前章ではTOCの制約について触れましたが、本章ではTOCと組み合わせて取り入れられるCCPM(Critical Chain Project Management)について解説していきます。

CCPMはTOCの思想に基づき、解決すべきプロジェクト環境に適用されるソリューションのことを指します。

CCPMは3つの要素から構成されていますが、それぞれの構成要素がプロジェクト環境の停滞を防ぎつつ、業務フローを最大化するような効果を発揮します。

以下、CCPMの3つの要素について説明していきます。

  1. バッファマネジメント
  2. パイプラインマネジメント
  3. フルキット

バッファマネジメント

バッファマネジメントは、各業務において、その作業工程が停滞してしまう時間が発生することを防ぐために行われます。

そもそもバッファとは、プロジェクトスケジュールを見積もる段階で設定する「時間的な余裕」のことを意味します。

プロジェクトのスケジュールにバッファを設定することで、突発的なトラブルや急な要件変更にも対処しやすくなるといったメリットがあります。

しかし、バッファがあることで期日までに余裕が生まれてしまい、心理的に油断しやすく、安易にほかのタスクに着手して悪いマルチタスクが発生してしまう可能性もあります。

このような事態を回避するために必要なのがバッファマネジメントです。

バッファマネジメントでは、傾向グラフを用いてバッファの消費率を可視化したり、その消費率をもとに適切な余裕日数を割り出したりと、戦略的なバッファの配置が可能です。

関連記事:CCPMに不可欠なバッファマネジメントとは?重要な理由やコツを説明

パイプラインマネジメント

パイプラインマネジメントとは、複数プロジェクトの運営をスムーズにさせる手法です。

完了ペースを調整しながらリソースの投入量を最適化し、それぞれのプロジェクトを効果的にコントロールする方法を指します。

例えば、同時に複数のプロジェクトを運営している場合、効率良くスケジュールやタスクを管理できず、全体が遅延してしまうケースも珍しくありません。

パイプラインマネジメントでは、仮想ドラム(複数プロジェクトの開始点・終着点をずらすポイント)の設定やプロジェクトの導入タイミングの調整などにより、よりスムーズな複数プロジェクト運営を目指します。

プロジェクト間で連携を取る必要が出てくる場合もあり、各工程、プロジェクトのペース、スケジュールなどさまざまな要素を踏まえた調整が必要になります。

関連記事:CCPMにおけるパイプラインマネジメントとは?役割や手順も解説

フルキット

フルキットとは、プロジェクトを円滑に進めるための「準備された状態」を組織的に確立するための仕組みのことです。

例えばプロジェクトの準備が不十分な場合、手戻りが発生してしまい、結果的にプロジェクトの途中で停滞時間が生じてしまいます。

結果として、プロジェクトの完成ペースが予定通り進まず遅延が発生する場合があります。

そこで準備不足による手戻りや停滞を防ぐために、事前の準備やサポート、体制を整えた上でプロジェクトをスタートさせます。

プロジェクトを成功させるためには事前準備を徹底し、不安要素を一つひとつ解消していくことが重要です。

関連記事:【CCPM】フルキットとは?プロジェクト開始前の準備方法や活用のコツ

TOCの事例を参考にするメリット

本章では、実際にプロジェクトにTOCを取り入れる際、事例を参考にするメリットを解説します。

なぜTOCを取り入れる際に事例を参考にしたほうがいいのでしょうか。

そのメリットは、主に次の3つです。

  1. TOC導入前の疑似体験ができる
  2. 実践的なノウハウを学べる
  3. 新しいアイデアの創出につながる

それぞれのメリットについて解説していきますが、いずれのメリットもTOCを取り入れる前の事前準備の重要性を説いています。

TOC導入前の疑似体験ができる

最初のメリットは疑似体験ができることです。

他社の成功例や失敗例を事前に把握することで、実際にTOCを導入した際、同じようなケースに遭遇した際に冷静な判断を行いやすくすなります

事例を把握することと実際に試すことでは雲泥の差があるかもしれません。

しかし、「知識は力なり」という言葉があるように、事例を正しく理解し、自分の中に落とし込んで疑似体験をしていれば、実際の場面では落ち着いて行動がとれる可能性があります。

また、気をつけるべきポイントを事前にインプットしておくことで、リスク回避につながるという点もあり、TOCを取り入れる際の失敗の確率を最小限に抑えられるはずです。

事例にもさまざまなパターンの成功事例や失敗事例がありますので、導入前に実践を想定した備えをしておくことで、プロジェクトを成功に導く可能性を高められます。

実践的なノウハウを学べる

事例にはTOCの導入から実践に至るまでのストーリーが簡潔に盛り込まれているため、実践に役立つノウハウを吸収できます。

例えば、TOCを導入した企業が以下のステップでそれぞれどういった行動をとったかが学べるのです。

  1. どのような状況に置かれていたか
  2. どういった課題に直面していたか
  3. それをどのように乗り越えたか
  4. 最終的にどのような効果が生まれたか

座学やセミナーなどでは体系的な理論は学べても、実務をイメージしたノウハウを習得するのは難しいでしょう。

一方、TOCの事例を参考にすると、他社がTOCを導入するにあたって実際に抱えていた課題やアプローチ方法などの具体的な情報がわかります。

体系的な理論に加え、事例を通じて実践的なノウハウを身に付けることで、TOCのスムーズな導入につながります。

新しいアイデアの創出につながる

最後のメリットはアイデアの創出につながるという点です。

すでに座学やセミナーを通し、TOCの理論を導入済みの場合でも、具体的な他社の事例を参考にすることで新規性のあるアイデア創出につながる可能性があります。

今まで誰も実践してこなかったことをゼロベースから考え出すのは難しいものです。

その点、既存の事例を参考に趣向を凝らすだけで、今までになかった切り口が見えてくるかもしれません。

新たなアイデアを創出するためには、まず自社に近い業界事例や、定番の事例をインプットすることが大前提となります。

ときには幅広い部署から人員を募り、ケーススタディを通じてアイデアを出し合うことも大切です。

まとめ:他社の事例を参考に、よりスムーズなTOCの導入を

本記事では、TOCの導入事例を中心に、プロジェクト改革の成功例を具体的に解説しました。

TOCを自社にも導入し、プロジェクトを効果的に進め、成果を上げたいと思っている方も多いはずですが、専門的な知識が必要なTOCをプロジェクトに反映させるのは簡単ではありません。

その場合、体系立てた理論を学ぶだけではなく、実践的に顧客事例をインプットすることが重要です。

事例を通じてTOCの疑似体験をすることで、プロジェクトの成功率を高めたうえでリスク回避やアイデア創出へとつなげられます。

加えて、本記事で紹介したTOCはCCPMと密接な関係にあります。

CCPMは、バッファの適切な配置や事前準備の徹底などにより、プロジェクト環境の停滞を防ぐ効果が期待できます。

TOCやCCPMは正しく導入できれば効果が期待できるプロジェクト管理の手法であり、理論をしっかり学ぶことが重要です。

こちらの資料でCCPMの定着ポイントが理解できますので、ぜひ参考にしてみてください。

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また、当社ビーイングコンサルティングはTOCやCCPMの導入支援を行っています。

手厚いコンサルティングサービスを受けることで、TOC/CCPMの着実な導入が可能になり、プロジェクト管理を効率的に進められるようになるはずです。