1.昭和電工マテリアルズ株式会社


先端素材・材料から技術サービスまで、あらゆる課題を解決するワンストップソリューションを提供する昭和電工マテリアルズ株式会社。CCPMの手法を用いて、どのようにプロジェクトにおける課題を解決したのか、その過程を解説する。

プロジェクトマネジメント改革の概要

改革内容 プロジェクトにおける課題をCCPMで解消
主な課題 ・プロジェクトにおける明確な管理ルールが存在しない
・プロジェクトの目標や成果物が不明確である
・プロジェクト進捗の基準が人によってバラバラ
・進捗管理の意義や必要性をチーム内で共有できていない
・リソースのコントロール方法が明確化されていない

昭和電工マテリアルズ株式会社は、1912年に日立製作所から分社する形で設立された化学メーカーである。絶縁ワニス・積層板といった源流製品や、粒子設計・デバイス設計などの材料技術ソリューションを提供している。

社内では、アプリケーション開発からインフラ構築まで大小さまざまなプロジェクトが進行しているが、プロジェクトマネジメントが上手く機能しておらず、不透明な納期遵守率や進行の遅れといった問題が発生していた。

そこで、工期短縮を可能にするプロジェクト管理手法、CCPMの導入を決意する。

改革前の社内の状況

2.改革前のプロジェクトの状態

プロジェクトマネジメントにさまざまな課題を抱えていた同社。

例えば、各チームのつながりが不明瞭で、課題や進捗報告がなかなかあがってこない。プロジェクトマネージャー(PM)が全体進捗を把握できず、プロジェクトの遅延が発生するほか、思うように成果が上がらないような事態にも波及していた。

特にプロジェクト進捗の遅延は慢性的な問題である。だからこそ、CCPMによって納期遵守率を高める必要に迫られていたといえるだろう。

CCPM導入のロードマップ

3.CCPMに興味を持ったきっかけ

同社がCCPMに興味をもったのは、日立製作所から紹介を受けたのがきっかけだった。

プランニングや進捗管理手法の具体的な話を聞くうちに、自社のプロジェクトにも活用できそうだと考え、2015年からトライアル運用をスタート。さらに2016年には、CCPM専用ソフトウェア「BeingManagement3」を実装した。

まずは、調達システム構築プロジェクトで運用を開始し、その基盤システムを社内全体に拡張させるのが目的である。

プロジェクトマネジメント改革のポイント

  • 測定不可能だった初期納期遵守率を数値化し、100%の目標に近付ける
  • プロジェクトにおける実行タスク期間を短縮させる
  • トライアルでマネジメント基盤を構築し、他プロジェクトに拡張させる
  • 計画策定を担う推進部プロジェクトと、CCPMの考え方を社内に浸透させる推進チームに役割を分ける

プロジェクトマネジメント改革の効果

  • トライアルから5年を経て初期納期遵守率が100%を達成
  • 計画時タスク期間に比べて、実行タスク期間が6.7%縮小
  • 組織全体を通じて納期に対する意識が向上
  • CCPMによるプロジェクトマネジメントが組織内に浸透

プロジェクトマネジメント改革後の展開

  • 社内と外注先でCCPM工程表と現場用WBSを使い分ける
  • 組織面と工程面でさらにCCPMの適用範囲を拡張させる

プロジェクトマネジメント改革の詳細

第1フェーズ(2015年~):トライアル運用開始

プロジェクト改革の第1フェーズにあたる2015~2016年の間は、既存のプロジェクトへ試験的にCCPMを導入した。

まず、クリティカルチェーンを「当初見積もり期間 × 50%」、バッファを「クリティカルチェーン × 50%」に設定。CCPMでは一般的な設定である。

4.クリティカルチェーンとバッファ

クリティカルチェーンとは、プロジェクトにおける最も長い工程期間を指す。バッファとは、作業スケジュールに含まれる余裕期間のこと。詳細は以下の記事を参考に。

関連記事:クリティカルチェーンとは?活用シーンやクリティカルパスとの違いを解説
関連記事:プロジェクト計画の大半はバッファで決まる?重要性について解説

CCPMを導入した当初は、同プロジェクトにおいて複数の課題が発生していた。それを以下のように改善しようと試みた。

課題 目標

(1)WBSは存在するがタスクのつながりが不明確
(2)各タスクの優先度がわかりづらい
(3)全体の進捗状況が見えない

(1)ネットワーク図を構築して各タスクの依存関係を明確にする
(2)クリティカルチェーンに着目して優先度を明確にする
(3)傾向グラフを参考に納期遅れになりそうな作業を可視化

トライアルから実プロジェクトにCCPMを反映できるよう、2年間運用して効果を測定することに。

第2フェーズ(2017年~):実プロジェクトに反映できる基盤の構築

第2フェーズに移行する前に、2015~2016年に実施したCCPMのトライアルを振り返る。

【トライアル期間において苦労したこと】

  • WBSとCCPMのスケジュールに乖離が発生
    プロジェクト進捗会議にCCPMスケジュールを使用していたものの、外注先ではWBS(作業分解構成図)で管理を行っていたため、両者のスケジュールに乖離が生まれた
  • 完了予定日直前で残日数の延長報告が行われる
    外注先で日々の進捗管理ができていなかったのが主な原因

試行錯誤の末、上記のような課題に対して以下のような対策を講じた。

  • 事前に設定したABP(ぎりぎりの計画)に対して、「遅れても構わない」という了解を得る
  • そのうえで進捗管理はCCPMスケジュールのみを使用して議論、外注先では詳細な作業予定の確認とリソース管理のみにWBSを用いる
  • 外注先のプロジェクトメンバーに、残日数見積力強化を依頼
  • 傾向グラフやタスク優先度を抽出した進捗レポートを作成し、1週間に1回、プロジェクト関係者と共有

こうした管理手法の改善を経て、第2フェーズでは、実プロジェクトにもCCPMを横展開できるよう基盤を構築する。主なポイントは次の通り。

バッファの取り方の見直し

5.バッファの取り方の見直し

長期間利用している外注先の見積もりの正確性を考慮し、見積もり期間を大幅に変更した。

クリティカルチェーンを「当初見積もり期間 × 50%」から、「当初見積もり期間 × 66%」へ変更。バッファの設定は「クリティカルチェーン × 50%」の設定を維持している。

上記の設定は臨機応変に変更するが、頻繁な修正やプロジェクトごとの変更は原則行わない、というルールを設けた。

共通マネジメント基盤の構築

6.共通マネジメント基盤

トライアルで培ったプロジェクト管理手法を社内全体に波及できるよう、共通マネジメント基盤を構築した。具体的な内容は次の通り。

  • 各チームのWBSの内容をネットワーク図として表現
  • 目的・成果物・成功基準を視覚化
  • 進捗状況を残日数単位で報告、頻度を1週間単位に変更

第2フェーズのプロジェクト改革は以上となる。

CCPMの適用により、以前までは測定不可能だった初期納期遵守率が96.3%に改善した。特に、2017~2019年は100%を達成している。また、7,500日という計画時タスク期間に比べ、実行タスク期間が6,999日へと6.7%の短縮に成功した。

しかし、WBSとCCPM工程表の二重管理が発生してしまう点や、ABPを無理に守ろうとすることなど、マネジメント基盤を拡張させるには複数の課題が残っている。

第3フェーズ(2020年7月~):さらなるCCPMの拡張

第3フェーズでは、第2フェーズで構築した共通マネジメント基盤を他プロジェクトへ横展開し、それを社内全体に拡張する試みを実施した。組織全体のプロジェクトマネジメントにCCPMを応用させるのが目標となる。

そのうえで実施した取り組みは次の通り。

マネジメント基盤の拡充

7.マネジメント基盤の拡充

第2フェーズで構築したマネジメント基盤にさらなる汎用性を追加する。

具体的には次のような仕組みを取り入れた。

  • 達成状況を定期的にチェックする体制整備
  • リソースの不可状況を可視化
  • 組織全体へ応用するためのガイドラインを作成

役割の明確化

8.役割の明確化

プロジェクトマネジメントを実行する2つのチームを組成し、それぞれに明確な役割を与える。新たに生まれたチームは、複数のPMが在籍する「IOT推進部プロジェクト」と、CCPMの考え方を社内に広める「推進チーム」の2つ。

これまで一部のプロジェクトでしか運用されていなかったCCPMを組織全体に拡張したことで、社内全体でプロジェクトマネジメントの必要性が再認識され、納期に対する意識も向上した。また、同時に納期遵守率100%を達成している。

今後の展望

CCPMを導入して納期遵守率を100%に高めた後も、昭和電工マテリアルズは改革の手を緩めないでいる。

第3フェーズが完了した2020年以降は、外注先でのCCPMの管理範囲を限定化するとともに、社内ではその適用範囲をさらに拡張させる予定だ。

9.今後の展望

現在のCCPMの適用範囲は一部のプロジェクトに限定されているが、将来的にはIOT推進部内プロジェクト全域にまで広げる。また、工程面においても、現在はCCPMが適用されていない要件定義の部分にまで範囲を拡張する。


さて、ここまで昭和電工マテリアルズ様のCCPM導入事例を紹介しましたが、自社でもCCPMやTOCの理論を活用したいと望む企業担当者の方も多いではないでしょうか。

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