働き方改革を実現する課題のなかには、長時間労働の是正があります。

働き方改革関連法の改定で、原則月45時間、年360時間の時間外労働の上限規制を導入しています。

特別な事情がある場合では、年間6ヶ月まで月平均80時間を時間外労働の限度となる設定です。

上記のような上限規制の該当する企業は、自社で残業時間の削減に取り組みたいと考えていても、具体的にどのような対策をすれば良いか悩んでいることでしょう。

この記事では、残業時間を削減する具体例と成功事例を紹介しています。

残業時間が削減されて、従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上すれば、売り上げにも良い影響を与えるでしょう。

残業時間を削減する目的とは

残業時間を削減する目的は、次の3つです。

  • 生産性の向上
  • 従業員の健康維持
  • 働き方改革の実現

企業は、従業員が健康で働ける場所を設置しなければ、従業員の能力を十分に発揮させることはできません。

少ない人数の中で、どのくらい生産性を上げられるのかが課題です。

生産性の向上

残業時間を削減すれば、一日にできる業務時間が限られます。

時間をかけない分、1時間あたりの業務効率を向上させる必要があるでしょう。

残業ありきの働き方では、たっぷりと時間があることに余裕を感じてしまい、かえって業務効率が落ちてしまうものです。

残業時間を削減して業務を効率化させるには、既存の業務のやり方を見直すことが重要です。

業務効率化が実現した結果、組織全体の生産性の向上に寄与します。

従業員の健康維持

残業時間を削減する目的の一つに、従業員の健康維持が挙げられます。

長時間の時間外労働をすると従業員のストレスや疲れが解消されないまま、翌日の業務を行うことになるでしょう。

残業時間の削減に取り組めば自宅に早く帰り、ゆっくりと体を休められるほか、ワークライフバランスの向上により、気分転換や趣味に時間を割けます。

また、長時間労働をしていると体だけでなく、心の不調を訴える人もいます。

自身の健康や業務に不安がある状態では、離職の原因につながりかねません。

働き方改革の実現

働き方改革では、長時間労働の是正が揚げられています。

残業時間を減らそうとすると、おのずと適切な勤怠管理や、柔軟な働き方につながる制度設計を行わなければなりません。

ときには、勤怠管理システムの導入を検討したり、テレワークやハイブリッドワークに対応したりと、社内の働き方を大きく変えることもあるでしょう。

つまり、残業時間の削減の取り組みが、働き方改革推進のきっかけになります。

残業時間を削減するための具体例12選

残業時間を削減する具体例は、以下の通りです。

  • 労働時間目標を決める
  • 仕事量を見直す
  • 業務内容を見直す
  • 業務内容を共有する
  • 残業を事前申請する
  • ノー残業デーの実施
  • ツールを使用し業務を効率化する
  • 1人に集中した業務の改善をする
  • プロジェクト管理を徹底して負荷を分散する
  • 残業時間の見える化
  • ボトルネックで意見を吸い上げる
  • 顧客を巻き込み効率化する

労働時間目標を決める

残業時間を削減するためには、退社時間を決めて業務を終わらせることを目標にすることが大切です。

残業手当をあてにした生活を送っていたり、残業することが習慣化されていたりと、業務時間内に終わらせるという意識が働いていないのかもしれません。

また、チームで業務をしている場合、自分の業務だけ終了させて帰ることは難しい場合があるでしょう。

残業時間の削減の実現は、個人で行うことには限界があるため、チーム全体で協力することも大切です。

そのためには、就業時間内にどのタスクを完了させるべきか逆算して考え、優先順位を付けて業務を行う必要があります。

仕事量を見直す

残業になる原因は、そもそも勤務時間内に終わる業務量ではないかもしれません。

業務内容が担当者のスキルに合っていない場合もあるでしょう。

定期的に行われているだけの会議をなくしたり、各従業員にメールで配布していた書類をクラウドで共有したりすると、業務効率が上がるため残業時間の削減につながります。

慢性的な人手不足になっている部署では、残業をすることが日常的になっている可能性もあります。

そもそも、在籍している従業員だけで完了できる業務量ではないかもしれません。

マニュアル化できる仕事なら、アウトソーシングを依頼することも一つの方法です。

業務量の見直しを行ない、一日にできる作業量の洗い出しが必要です。

業務内容を共有する

業務内容の情報を共有することは、従業員一人ひとりに業務連絡をする時間や、業務確認の時間を短縮できるため、残業時間を削減できます。

同じ情報を共有することで、取引先から問い合わせがあったとしてもチーム全体で理解しているため、従業員全体でフォローし合えます。

また、誰でも業務が理解できていれば、担当者が休みなどの理由で業務が止まる心配もないでしょう。

業務内容の共有は、クラウドサービスを利用すれば、パソコンがない環境でも業務の確認作業が可能です。

業務に疑問があるときは書き込みができるため、より効率的な情報共有が可能になります。

残業を事前申請する

残業時間の削減の対策の一つに、事前に残業をすることを申請する方法があります。

残業の申請をする際には、業務内容と残業をする時間を先に報告します。

残業したい時間をあらかじめ伝えることで、時間が有限であることを意識できるでしょう。

残業の事前申請制を導入することで、各従業員の残業時間を上司が把握しやすくなります。

上司は部下の残業時間の把握ができるため、残業が発生しないように調整することも可能です。

ノー残業デーの実施

残業時間を削減するためには、ある程度強制的に残業しない日を決めておくことも大切です。

部署内でひとり、定時に帰ることは抵抗がある人や「残業はして当然」と考えている人がいるかもしれません。

しかし、残業しない曜日を設定することで、定時で帰る意識付けができるでしょう。

ただし、ノー残業デーに取り組むときは、部署ごとに設定すると他部署との連携が取りにくくなるため、社内で同じ日に設定する必要があります。

社内で同じ日に設定すると、顧客や取引先の対応ができなくなるかもしれません。

従業員をいくつかのグループに分け、ノー残業デーを曜日ごとの交代制にする方法があります。

交代制にすれば、部署内の連携が滞ることも少なくなり、急な顧客や取引先の連絡にも対応できるでしょう。

ノー残業デーが形だけの制度にならないために、普段から業務効率を意識して従業員同士協力したり、ツールの使用を検討したりすることが大切です。

ツールを使用し業務を効率化する

残業時間を削減するためには、仕事を効率化させる必要があります。

たとえば、複雑な勤怠管理をソフトを使用すれば業務を自動化できます。

勤怠管理だけでなく、個人のスケジュールやタスク管理までツールに頼ることも可能です。

  • コミュニケーションツール:
    ビジネスコミュニケーションツール。チャット機能やビデオ通話・ファイルの共有が可能。タスク管理ができるものや、話題によってグループ分けができるものがあり、目的に合わせた使い分けに役立つ。
  • プロジェクト管理ツール:
    個人のタスク管理・企業全体のプロジェクト管理が可能。チームのタスクの進捗状況や情報共有が可能。社内パソコンだけでなく、スマホから見られるため、リアルタイムで確認したいときに役立つ。
  • 勤怠管理システム:
    従業員の出退勤時間の管理。残業時間や休日などの管理・正確な計算に役立つ。タイムカードを使わずデータで処理をするためリアルタイムで情報処理ができる。スマホやチャットツールと連携し打刻できるものがある。

上手く使いこなせれば、業務情報や業務進捗・従業員同士のコミュニケーションまで幅広く利用できるでしょう。

1人に集中した業務の改善をする

残業時間を削減する取り組みの一つに、1人に集中した業務の見直しが挙げられます。

従業員それぞれにタスクを分散させようとしても、組織では優秀な一部の従業員に仕事が集中しがちです。

優秀な従業員ほど責任感が高い傾向にあるため、1人でも大量のタスクを抱えてしまうケースも珍しくありません。

そのような状況を放置していると、特定の従業員ばかりに負担が増し、組織全体の生産性も向上しなくなるでしょう。

だからこそ管理職は、特定の従業員にタスクが偏らないように注意が必要です。

それを避けるためには、それぞれの業務をマニュアル化し、どの従業員でも業務ができる状態にしておくことも大切です。

短時間で業務内容を引き継ぐことが可能になれば、1人の従業員への負担も軽減されるでしょう。

プロジェクト管理を徹底して負荷を分散する

プロジェクト形式で進めている業務がある場合には、プロジェクト管理を徹底することで残業時間の削減につなげることができます。

まずは計画全体を見直して、達成期日を後ろ倒しにしたり、作業量の多い箇所を余裕をもってスケジュールしなおすことで、メンバーにかかる負荷を軽減できます。

プロジェクト計画の見直しについては、CCPMの考え方が役に立つので是非下記の記事を参考にしてみてください。

業務改善に効果的な手法とは?CCPMを活用しよう

さらに、プロジェクトのリソース管理を徹底することで各メンバーにかかる業務負荷を適正化することができます。

リソース管理のポイントについては、下記の記事を参考にしてみてください。

リソースの割り当てはなぜ重要なのか?CCPMの利用をすすめる理由を説明

残業時間の見える化

従業員の中には、残業時間がどれぐらいかかっているか気付いていない人もいます。

このようなときは残業時間を可視化し、どのくらい時間を使っているか意識してもらう方法が効果的です。

たとえば、残業チケットを月の初めに発行し、残業が必要になったときにチケットを使う方法があります。

チケットの枚数には限りがあるため、従業員はむやみに残業ができなくなるでしょう。

チケットの消費という方法で、ひと月にどれくらい残業していたか理解しやすく、チケットを使わないように改善しやすくなります。

他にも、クラウドツールを利用すれば、残業時間の見える化が可能です。

残業時間を見える化できるクラウドツールは、あらかじめ設定した残業時間を超えたときに、管理者や従業員本人にアプリやメールで通知されます。

グラフで月の残業時間がわかるものもあるため、残業時間が多くなる時期や残業の多い部署を調べやすくなるでしょう。

ボトルネックで意見を吸い上げる

残業時間を削減するためには、ボトルネックで意見を吸い上げる方法があります。

残業時間を減らすため、経営者自ら現場の様子を確認するほか、従業員から話を聞いて分析・対策を実施することが重要になります。

また、第三者の目を利用して、従業員が気づかない業務のムダを聞き取る方法もあります。

異業種の視点やインターン学生から、普段従業員から聞けないような業務のムダを話してもらえば、意外な業務改善ができるかもしれません。

顧客を巻き込み効率化する

自社と取引先の書類の書式をそろえることで業務効率化につながります。

相手企業と同じソフトを使用しなければなりませんが、書類チェックにかかる時間短縮が可能です。

この場合、自社のみならず顧客や取引先も効率化が図れるところが特徴です。

残業時間削減に成功した企業の事例

ここからは、実際に残業時間の削減に成功した事例を3社紹介します。

  • カルビー株式会社
  • 伊藤忠商事
  • 日立ソリューションズ

上記企業は、残業時間の削減の取り組みに、残業時間をなくすだけでなく、時間管理や効率化を上手く取り入れています。

それぞれの事例を詳しく解説します。

事例1:カルビー株式会社

カルビー株式会社は、スナック菓子やシリアルなどを製造・販売している日本大手のお菓子メーカーです。

カルビー株式会社は、ワークライフバランスを重要視し、以下のような取り組みで残業時間の削減を進めています。

  • 就業時間の適正化
  • 朝早く出勤して帰宅時間を早めるサマータイムを導入
  • 早帰りを推奨するために早く帰るデーを設定

カルビー株式会社は、早く帰るデーを毎週水曜日と金曜日に設定し、16時には促進音楽をかけて、早く帰る雰囲気作りをしています。

このほかにも、フレックスタイム制度の導入で、始業時間や就業時間を自分で決め、時間に対する意識付けを行っています。

参考:人財育成の考え方|カルビー株式会社

事例3:伊藤忠商事

伊藤忠商事は、繊維・住生活・情報など、人々の暮らしに必要な商品やサービスを扱う総合商社です。

伊藤忠商事は、従業員の健康管理や効率的な業務を推進しており、朝型フレックスタイム制度を設立し、フレキシブルタイムを5~8時に設定しています。

朝型勤務は、22~翌5時までの深夜勤務を禁止、20~22時までの勤務を原則禁止にしています。

いわゆる残業が必要になった場合は、事前に申請し朝の5~8時に業務を行います。

このような取り組みを行った結果、総合職で月平均49時間11分から45時間20分に減少し、約4時間の時間外労働の削減に成功しました。

実際に利用した従業員からは「家族との団らんの時間が取れた」「メリハリのある時間が過ごせる」などのメリットを感じている声が寄せられています。

参考:より効率的な働き方の実現に向けた取組について~朝型勤務の正式導入~|伊藤忠商事

事例3:株式会社日立ソリューションズ

株式会社日立ソリューションズは、自動車・情報・通信など幅広い分野に商品やサービスを提供し、さまざまな企業の課題を解決する企業です。

株式会社日立ソリューションの取り組みは、自由で効率の良い働き方ができる企業を目指しています。

オンラインを利用し、従業員同士の情報共有やタスク管理を実施しました。

また、RPA(ロボットによる自動化)を導入し、単純作業のような決められた操作は自動化し、今後はRPAとAIを組み合わせて、人間の判断が必要な分野まで自動生成できるように動いています。

参考:ワークスタイル変革ソリューション|株式会社日立ソリューションズ

残業時間を削減する際によくある失敗

ここまで、残業時間を削減する具体例や成功している企業の成功例を紹介しました。

しかし、自社の残業が発生する原因を明確にしてから実行しなければ、一見残業時間が減っているように見えても、従業員の業務負担は減っていないという結果になるでしょう。

残業時間の削減に着手する際は、以下の3点に注意してください。

  • 強制的に残業なしの施策を推し進めていないか
  • 残業時間削減の取り組みを社員が受け入れているか
  • 具体的な対策を取れているか

残業時間削減に取り組んでみたものの、失敗すれば従業員のモチベーションが低下し、生産性が落ちる原因になりかねません。

モチベーションの低い職場環境では、やる気のある従業員の離職につながります。

どのような点に注意すれば良いか、具体的に見てみましょう。

強制的に残業なしの施策を推し進める

残業時間の削減は、個人の業務効率を上げるだけでは解決せず、社内全体で取り組まなければなりません。

ときには強制的に、残業ができない環境にすることも大切です。

しかし、表面的な取り組みでは、自宅に仕事を持ち帰る人や休憩時間を使って業務する人が出てくるでしょう。

現在の業務量が変わらないまま残業時間だけ削減しても、根本的な解決にはなっていません。

ただ慣例で行っている業務を削減するなど、従業員の業務内容と業務量を見直し、ムダな業務を減らしていくことが重要です。

社員が受け入れていない

残業時間の削減に突然取り組むと、自分ごととして受け入れられない従業員もいるでしょう。

「成果を出すためには残業して当然」「残業しているほうが仕事をしている感じがする」と思う従業員がいれば、なかなか残業時間は削減できません。

逆に「自分だけ早く終われば良い」と考え、業務が残っていても手伝うこともなく帰る人も出てくるでしょう。

日頃から部署内でコミュニケーションを充分にとり、部署内の従業員が定時で帰れるようなチームワークを作ることが大切です。

具体的な対策が取られていない

「残業時間を削減しよう」と目標だけ掲げて、具体的な方法を提示しなければ従業員は何に取り組んで良いのか分かりません。

具体的な方法を確認するたびに上司の承認を得ようとした結果、かえって業務の効率性が悪化してしまいます。

従業員とどうすれば業務効率が良くなるか話し合い、管理者側からツールの導入や提案を積極的に行わなければ、残業時間削減の実現は難しいでしょう。

業務のムダを省き効率良く業務ができれば、企業の生産性を高めつつ残業時間の削減を実現できます。

まとめ:残業時間を削減するためにはツールを使って効率的に

この記事では、残業時間の削減する具体例と成功した企業事例を紹介しました。

あわせて、よくある失敗例についても解説しているため、残業時間の削減に取り組む際には注意してください。

残業時間を削減する具体例はありますが、まずは自社では何が問題点か明確にすることが大切です。

業務を見直してみると、ムダな業務が見つかるかもしれません。

まずは、残業時間の削減に業務内容の効率を考えツールを活用してみてください。

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