「初めての任命に右も左もわからない」というプロジェクトマネージャーの方も多いのではないでしょうか。
プロジェクトマネージャーは、企業の利益を向上できるよう、プロジェクトをスムーズに遂行する必要があり、そのためには適切なプロジェクト管理が不可欠です。
適切にプロジェクト管理するうえで、最も重要な要素といえるのが工数です。
工数とは、プロジェクトが完了するまでに必要な時間と人数を表す指標で、考え方を理解し工数を削減できれば、納期遅延の解消や人件費の抑制につながります。
本記事では、工数に関する次のような基礎知識を解説します。
- 工数と工数管理の概要
- 工数管理を実施する重要性
- 工数管理をするために覚えておくべき単位
- 工数の計算方法
- 工数を管理する際の注意点
- 適切な工数管理に重要な考え方であるCCPMについて
本記事を最後まで読むことで、プロジェクトの最重要項目である工数について理解を深められ、プロジェクト進行をスムーズにする足がかりとなります。
また以下の資料では、実際の企業の現場で組織の生産性向上を実現した、マネジメントの変革手法についてご紹介しています。
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そもそも工数とは何か?
工数とは、プロジェクトを完了するまでに必要な時間と人数を表す指標です。
プロジェクト完了までに必要な作業時間と言い換えることもできます。
製造業をはじめとするさまざまな業種で使用される概念で、プロジェクトを完了するまでに必要な作業量の指標として使われています。
「完遂までにどれくらいの人数と時間がかかるのか?」を算出するのに工数の把握は極めて重要と言えるでしょう。
標準工数とは
標準工数とは、標準的なスキルのメンバーが標準的な作業方法、作業環境でプロジェクトを進めた場合に必要となる時間に、朝礼やトイレ休憩などの余裕時間を足した時間です。
例えば、プロジェクトを担当するメンバーが3人いた場合、それぞれが8時間ずつ作業をすれば完遂できる、というケースであれば3人×8時間で24時間が標準工数となります。
メンバーごとに熟練度や作業時間は異なるため、おおよその工数を把握するために使われるのが標準工数です。
工数管理とは?
工数管理とは、プロジェクト完了までに必要な時間と人数を管理することです。
プロジェクト完了までに必要な作業量をすべて合計して見える化すること、とも言い換えられます。
工数管理で管理する業務量は「かかる時間」×「人数」で算出できますので、管理するのは主に時間と人の2つです。
時間と人を見える化して管理することで、プロジェクトの進捗をリアルタイムで把握できるだけでなく、時間がかかっている作業の特定や作業効率の悪いメンバーの発見、プロジェクト完遂のおおよその時期が分かります。
工数管理をすることにより、作業が遅れているメンバーの配置転換や、進捗に問題のあるタスクに人員を投入するといった、効率化や生産性向上に向けてのアプローチが容易になるでしょう。
次の記事にて工数管理の詳細を紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
関連記事:プロジェクトの工数管理とは?3つのメリットやおすすめツールを紹介
工数管理の重要性とは?
ここまでは工数管理とはどういったものか説明しました。
しかし、「工数管理なんて意味ないのでは?」と思う方もいるでしょう。
ただ工数管理は製造業やITなど、あらゆる業界で使われている重要なマネジメントスキルです。
そこで本章では工数管理の重要性を次の3つをご紹介します。
- プロジェクト全体のコストを把握できる
- 進捗状況を把握できる
- 見積もりの失敗がなくなる
詳しく見ていきましょう。
プロジェクト全体のコストを把握できる
社内において複数のプロジェクトに関わっている場合、プロジェクト単位で正確にコストを把握するのは困難になります。
特に人件費については、決算処理をする際、プロジェクト単位では計上しないので無駄なコストが生まれているかもしれません。
工数管理をすることで、過剰な人員投入による無駄な人件費の発生や、反対にメンバー不足による遅延が発生しているといった、プロジェクトごとに課題を浮き彫りにできます。
プロジェクト全体のコストを見える化して課題を特定・改善することにより、利益を最大化するプロジェクト進行ができます。
進捗状況を把握できる
2つ目の理由は、責任者がプロジェクトの進捗状況を常に把握できることです。
特に複数のプロジェクトを同時に管理している場合、「誰がどのプロジェクトに関わっているのかが把握できない」「気づいたらあるプロジェクトが納期間近になっている」といった事態になりかねません。
その点、工数管理をすることにより、プロジェクトに関わるメンバーや進捗状況が一目でわかるので、特定のメンバーにだけ負担がかかる、プロジェクトが遅れるといった事態を防ぐことができます。
また、他メンバーの進捗状況も知ることができるため、メンバーの意識も高まり生産性の向上に繋がるでしょう。
見積もりの失敗がなくなる
3つ目の理由は、見積もり失敗による顧客の信頼を失うリスクを減らせる点です。
顧客に見積もりを出す時、予算や納期、品質に関わる事項は正確なものを出さなければなりません。
「予算は100万円くらいでできるだろう」「納期は月末くらいで大丈夫だろう」と正確性に欠ける見積もりを出してしまうのは絶対にNGです。
後になって「やっぱりできませんでした」と追加予算を請求したり、納期を延ばしてもらうよう交渉したりした時点で、顧客からの信頼を大きく失うでしょう。
反対に、適切に工数管理を行い、正確な納期・予算で見積もりを出すことができれば、顧客からの信頼を得られます。
また、正確な見積もりができれば、誤った予算で見積もりを行う、納期をギリギリに設定する、といった事態を防げるため、メンバーに負担を強いることも減らせるでしょう。
日頃から工数管理をしておけば、データが蓄積されるたびに見積もりの精度がより高くなります。
工数管理のために覚えておくべき単位とは?
IT業界で工数管理を実施する場合、独特の単位が使われることがあります。
ここでは、IT業界においてよく使われる次の3つの単位について解説します。
- 人時
- 人日
- 人月
人時
人時はマンアワーとも呼ばれ、「1人のメンバーが1時間作業してこなせる作業量」を表します。
例えば、1人で1時間かかる作業は「1人時」と呼ばれ、5人がそれぞれ5時間作業しなければならない作業は5人×5時間で「25人時」です。
人時の単位は1時間単位で区切れるような、少ない作業量の時によく用いられます。
人日
人日は「1人のメンバーが1日作業してこなせる作業量」のことです。
1人が1日作業してかかる作業量は「1人日」、5人が5日間作業する場合は5人×5日で「25人日」となります。
また、50人でかかって半日かかる場合でも50人×0.5日で25人日となります。
就業時間が8時間だったとしても、その間に休憩や打ち合わせなどの時間も入ってくるため、人日で計算する場合は何時間の作業を1日分とするか、あらかじめ定義しておくとよいでしょう。
人月
人月は「1人が1ヶ月作業してこなせる作業量」です。
メンバーがフルタイムで勤務している場合、週休2日と考えると1ヶ月の稼働日はおよそ20日となるので、1人月=20人日で計算されることが多いです。
ただし、祝日が多い月などは人月あたりの作業が少なくなりますので、注意しておきましょう。
工数の出し方(計算方法)とは?
ここでは、工数の出し方(計算方法)について解説していきます。
必要な人数を求める際の計算方法は次の通りです。
- 工数 ÷ 期間 = 必要な人数
例えばプロジェクトを完遂するのに10人月の工数がかかる場合、納期が2ヶ月後だとすると10人月÷2ヶ月で5人のメンバーが必要となります。
またプロジェクトを完遂した後、実際にかかった工数は「メンバーの人数×時間」の総和で求められます。
例えば、納期が6ヶ月後のプロジェクトを最初の2ヶ月は3人で進めていて、残り4ヶ月は1人増やして4人で作業した場合の計算は次の通りです。
最初の2ヶ月 | 2ヶ月 × 3人 = 6人月 |
残りの4ヶ月 | 4ヶ月 × 4人 = 16人月 |
実際にかかった工数 | 6人月 + 16人月 = 22人月 |
プロジェクトが終わるごとに工数計算をすると、今後同じ規模のプロジェクトを進める時にスムーズに工数計算できるようになるので、必ず工数計算をして振り返るようにしましょう。
工数を管理する時の注意点
誤った工数管理をしてしまうとプロジェクト全体、ひいては会社全体のコストや利益の管理にズレが生じてしまいます。
結果、納期の遅延やリソースの調整不足といった事態を招き、無駄なコストが発生するといった事態になりかねません。
ここからは、工数管理をする時の注意点について解説します。
現場にいるメンバーの能力を考慮する
正確な工数管理をするには、プロジェクトに携わるメンバーの能力を考慮しなければなりません。
数字だけを見ていると忘れがちなのですが、プロジェクトを進めていくのはあくまでも「人」です。
人によってそれぞれ能力や得意な作業は異なるので、メンバーのスキルや作業スピードなどを考えて工数を管理する必要があります。
人は簡単に入れ替えることはできないので、事前にメンバーが過去に携わったプロジェクトのデータを用いて、各メンバーの能力を把握しておくことも重要です。
メンバーに日々の作業報告を徹底させる
正確に工数管理をするには、作業の進捗をメンバーに報告してもらう必要があります。
報告を受ける際に、作業量やかかった時間をあいまいに報告されてしまうと、データ上の数値と現実に乖離が生まれてしまい、工数にずれが生じてしまいます。
「後でまとめて報告しよう」というメンバーが出てくると、作業量や作業時間があやふやになってしまうので、大変危険です。
毎日しっかりと作業報告をするよう徹底させることで、より正確な工数が分かりプロジェクト全体がスムーズに進みます。
そのためには、Excelによる帳票の利用や、利便性の高いツールを導入するなど、報告しやすい環境を整えるとよいでしょう。
目的をメンバーに説明する
工数管理のためにメンバーに作業報告をさせる時は、「なぜ作業報告が必要なのか?」という目的をしっかり説明しておくことが重要です。
目的を説明せずに「ただ作業の進捗を毎日報告してください」だけだと、おおよその数字でしか報告しなかったりして、正確性に欠けるデータが集まってしまいます。
精度の高い工数管理をするために、「メンバー1人1人の進捗状況を把握して、納期まで余裕を持って進めていきたいから、正確な数字を報告して欲しい」と、メンバーに工数管理をする目的をきちんと説明しておきましょう。
また、メンバーから報告させるだけでなく、プロジェクトマネージャーからも進捗に対して積極的にフィードバックを行いましょう。
フィードバックを受けてメンバーが今の問題を自覚出来たり、達成感を感じられたりしてより作業効率がアップします。
適切な工数管理にはCCPMの考え方が重要
適切な工数管理をするためには、バッファの管理も重要なポイントです。
バッファとは、プロジェクト進行中にトラブルが発生しても、納期内で対応できるよう個々のタスクに設定されている時間的な余裕を指します。
バッファを設定すると、急なトラブルに対応しやすくなり納期遅延を防ぐことができます。
このバッファを効果的に運用し、よりスムーズなプロジェクト進行を可能とする考え方がCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)です。
CCPMは、個々のタスクに設けられているバッファを1つにまとめて、プロジェクトの最後に設定する手法です。
CCMPの導入によりプロジェクト全体の遅れ具合をひと目で把握できるようになります。
プロジェクトの進捗率と全体の遅れ具合を比較することで、「進捗率に対してバッファを多く消費しているため大きな問題が発生している」といった、プロジェクト全体の状況を早期かつ客観的に把握できます。
その結果、プロジェクトマネージャーはより適切な管理や調整を行えるでしょう。
より詳しくCCPMについて知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:組織パフォーマンスの最大化を実現するプロジェクト管理手法のCCPMとは?
まとめ:工数管理について理解し適切な管理を実施しよう
工数はプロジェクト管理する上で最も重要といえる要素で、適切に管理することによりプロジェクトのスムーズな進行やメンバーのモチベーション向上などにつながり、生産性が向上します。
正確な工数管理を実現するためには、各開発メンバーと目的をしっかりと共有し、協力を得ることが重要です。
そのため、すぐに効果を実感するのは難しいですが、業務改善して利益を最大化するために工数管理を取り入れてみてください。
また、適切な工数管理をするためにはバッファ管理も重要なポイントとなります。
そしてバッファを効果的に運用し、よりスムーズなプロジェクト進行を可能とする考え方がCCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)です。
CCPMとは、バッファ(時間的な余裕)の消費具合と進捗率に注目した管理手法で、導入によりプロジェクト全体の遅れを早期かつ客観的に把握できるようになります。
より適切な工数管理を行い、プロジェクト全体の生産性を向上できるようCCPMを導入してみてはいかがでしょうか。
こちらの資料にCCPMの定着ポイントをまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。