プロジェクトを進めるうえで、トラブルや計画の変更で進行が遅れることがあります。
その際に有効になるのが「クラッシング」と「ファストトラッキング」という手法です。
クラッシングは、トラブルが起きたタスクに対して、リソースをかけることで遅延を短縮させる方法、ファストトラッキングは、複数のタスクを同時進行させ、計画から遅れた期間を取り戻す方法です。
納期が遅れないようにプロジェクト管理を進めることが理想ですが、いつでも計画通りに進むとは限りません。
どのようなプロジェクトを進める際にも、万が一、遅れることを想定して備えておくべきでしょう。
この記事では、クラッシングとファストトラッキングの違いと、実施する際の注意点やポイントを解説しています。
それぞれの手法のリスクを理解して、スケジュール遅延の解消に取り組んでください。
クラッシングとファストトラッキングの違い
クラッシングとファストトラッキングは、どちらも最終的にプロジェクト成功させる際に、遅れた工程を取り戻す方法です。
それぞれ短縮させる手法や実施するタイミングが異なります。
ここでは、それぞれの手法の違いを解説します。
クラッシングとは
クラッシングとは、現在より多くのリソースをかけてスケジュールを短縮させる方法です。
プロジェクトにおけるリソースには、人的資源や時間などの種類が存在します。
例えば、プロジェクトを立ち上げたものの、人手不足でスケジュールがずれてしまった場合、ほかの部署から人手を借りて人的資源を補強できます。
しかし、リードタイムに遅延が発生するたびに他所から人手を借りるのは難しいことから、人材を採用して根本的な人手不足を解消させるのがクラッシングの手法にあたります。
また、従来の従業員が効率よく働くために必要なツールの導入もクラッシングに含まれます。
導入の際には、どのタスクにどのくらいのコストと人員を割けば短期間で遅れた業務が取り戻せるか、分析することが大切です。
その際、クリティカルパス上のタスクを短くすることが重要となります。
参考:クリティカルパスとは?プロジェクト管理者が押さえたい特定方法の4手順
ファストトラッキングとは
ファストトラッキングとは、順序性のある複数の工程を同時進行させて最終的な期限を守る手法です。
例えば、プロジェクト内のタスクを進める際に、一般的には一つ目のタスクが完了してから次のタスクに取りかかります。
しかし、ファストトラッキングを実施する際は、一つ目のタスクが完了する前に、次のタスクを同時進行させ、納期に間に合わせます。
プロジェクトの初期段階で遅延が発生した場合、それまでのタスクを見直し、遅れたタスクから先のタスクを同時進行させるような方法がファストトラッキングです。
ただし、複数のタスクを同時並行で行うため、同じ担当者の場合は負担は増大し、悪いマルチタスクの状態になりやすいので注意が必要です。
クラッシングとファストトラッキングの違い
クラッシングはコストはかかるものの、ファストトラッキングと違って順番通りに工程を進行できるため、作業が手戻りするリスクが低くなります。
その結果、品質を維持したまま納期に間に合わせることが可能です。
ファストトラッキングは、従業員やツールなどを増やさずに、現状のリソースの負担を増加させて各工程を同時進行させる方法です。
特に、各メンバーに対する負担が増すものの、コストそのものは大きく変動しないため、コスト面を重視したいときに有効な手法です。
品質の維持・向上を目指すならクラッシング、コストを重視するならファストトラッキングのように選び分けると良いでしょう。
クラッシングとファストトラッキングのメリット
クラッシングとファストトラッキングは、品質とコストのどちらを重視するかによって取るべき手法が異なります。
次から、それぞれのメリットを解説していきます。
クラッシングのメリット
クラッシングのメリットは、遅れたタスクの一つひとつに時間とコストがかけられるため、品質を保持したまま遅延短縮を図れるでしょう。
チームメンバーを増員した結果、各メンバーの業務負担が和らぎ、タスク管理を行いやすい点もメリットの一つです。
また、メンバーの増員だけでなく、遅延解消のためのプロジェクトマネジメントツールを導入することで、よりスムーズな進行が可能になるほか、構築したマネジメント基盤を別プロジェクトに応用することも可能です。
遅延解消に役立つプロジェクトマネジメントツールには、スケジュール管理・タスク管理ツールのほか、プロジェクトに関わる資料や情報をプロジェクトメンバー全員で共有できるものがあります。
管理するタスクの多さや操作しやすさ、外部ツールと連携できるかどうかで選ぶと良いでしょう。
ファストトラッキングのメリット
ファストトラッキングのメリットは、コストがかからないことです。
遅れたタスクから同時進行で複数のタスクを進行させるため、遅延前のコストとファストトラッキング導入後のコスト面の差は大きくありません。
人材の増員やツールの使用などのコスト面はかからないため、予算内に収めたいときに有効な手法です。
チームメンバーの作業時間を増加させることが難しい場合は、別のプロジェクトチームに応援を頼んでみることも一つの方法です。
この際は、プロジェクトマネージャーの交渉力やコミュニケーション能力が求められます。
クラッシングとファストトラッキングをする際の注意点
クラッシングとファストトラッキングは、スケジュールの遅延を取り戻すことに役立ちますが、いくつかの注意点があります。
メリットだけではなく注意点にも着目し、トラブルを回避できるようプロジェクトを進めることが大切です。
クラッシングの注意点
クラッシングを実施する際の注意点は、リソースをかけたものの、必ずしも望んでいた成果が得られるかどうかわからないことです。
クラッシングを実施するために新しい従業員を確保しても、個人によって能力に差があるうえに、プロジェクト理解のための教育コストも必要になるでしょう。
また、業務効率を上げるために導入したツールであっても、使い慣れるまでに時間がかかります。
クラッシングを実施する前に、まずはコストをかけずに導入できるファストトラッキングから試すと良いでしょう。
問題のある箇所が見つかれば、プロジェクトマネジメントツールやチームメンバーの増員を検討し、ファストトラッキングと同時にクラッシングを実施します。
上記のように、ファストトラッキングとクラッシングを併用しつつ、徐々にクラッシングの割合を高めることで、プロジェクト全体のパフォーマンスの向上が期待できます。
ファストトラッキングの注意点
ファストトラッキングを実施する際の注意点は、手戻りリスクが高まることです。
ファストトラッキングは、一つの業務工程が完了しないうちに複数の工程を同時進行で進めます。
しかし、前行程で問題点が見つかれば、進めていた後工程の作業が無意味になってしまう点には注意が必要です。
プロジェクトマネージャーとしては、複数の業務工程の進捗に目を向け、問題点がないか把握しなければなりません。
また、複数の工程を同時に進行させる必要があるため、各チームメンバーに対する業務負担が大きくなりがちです。
スムーズにファストトラッキングを実施するため、各メンバーの作業内容や進捗状況を可視化し、プロジェクトマネージャーがこまめにチェックする必要があります。
もし個別のメンバーに負荷が集中していたり、工程に遅れが生じたりしそうな場合は、緊急時の対策として別のプロジェクトから応援を募ります。
また、ファストトラッキングを行ううえで発生した問題を記録しておき、次回のプロジェクトに向けて、メンバーの配置転換や適切なタスクの割り当てといった改善策を考えることも重要です。
クラッシングを実施するポイント
クラッシングを成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
- クリティカルパスの実行がどれくらい遅れているのか
- クラッシングを実施するリソースがあるか
- クラッシングを実施する時間が残されているか
クラッシングは、タスクの遅延の程度によって多くのコストを投入する必要があります。
本当にクラッシングを行うべきか調査するべきでしょう。
クリティカルパスの実行がどれくらい遅れているのか
そもそもクリティカルパスとは、プロジェクトが納品するまでにかかる時間の最長工程のことです。
クリティカルパス上でスケジュールの遅延が生じた場合、プロジェクトが完了しない場合があります。
そのため、クラッシングを実施する際は、クリティカルパス上のタスクがどれくらい遅れているか明確にすることが重要です。
クリティカルパスは、プロジェクトのタスクを分割し、それぞれのタスクがどれくらいの時間がかかるか明らかにすることが大切です。
明確になったタスクは、PERT図というネットワーク図を用いて、それぞれのタスクの関係性を可視化します。
タスクのかかる時間と関係性を明確にすることで、どのくらい遅延が生じても問題ないのかが計算できるでしょう。
クラッシングを実施するリソースがあるか
クラッシングを実施する際は、実施するリソースがあるかどうかが重要になります。
例えば、プロジェクトに参加したばかりの方が、現在のチームメンバーと同等のパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。
クラッシングを実施するリソースが十分あれば良いですが、リソースが少ない場合は即戦力となる人員を選ぶことも重要です。
人的資本以外にも、ツールや設備、時間もプロジェクトにおけるリソースに含まれます。
従業員の勤務時間は決まっているため、優先度の高い業務を効率的に進める必要があり、従業員一人ひとりのスキルや業務を把握し、スケジュール管理することが重要になるでしょう。
また、プロジェクトを計画する段階で十分な時間を確保しておき、遅延トラブルに備えておく必要があります。
最適なリソースをどこに割けば良いのか、状況に応じて使い分けるようにしてください。
クラッシングを実施する時間が残されているか
クラッシングを実施する際は、時間にある程度の余裕があるか調べることも重要です。
新人の従業員がプロジェクトに関わる場合、業務内容を理解したり業務に慣れたりする時間が必要になるでしょう。
また、プロジェクト管理ツールを導入する場合、ツールに慣れる時間についても同様のことがいえます。
クラッシングを行えば、どれくらいの時間が短縮できるのか確認し、プロジェクトが期限に間に合うのか把握しておきましょう。
ファストトラッキングを実施するポイント
ファストトラッキングを実施するポイントは以下の3点です。
- クリティカルパスの遅れを確認する
- ほかのタスクへ影響を考慮する
- 並行業務を行う余裕があるか
ファストトラッキングは、業務工程そのもののスケジュール短縮を図るため、業務過程やタスクへの影響がポイントです。
クリティカルパスの遅れを確認する
クラッシングと同様にファストトラッキングでも、クリティカルパスの業務工程がどれくらい遅れているのか確認しておくことが重要です。
クリティカルパスにおけるタスクの遅延は、プロジェクト全体の進捗率に直結するからです。
クリティカルパス上の工程を明確にし、同時進行で進められる業務はないか確認しておきましょう。
ほかのタスクへ影響を考慮する
ファストトラッキングは、該当する工程がほかの工程に影響がないか確認しなければなりません。
確認を怠ると、問題が起きたときに手戻りリスクの発生確率が高まります。
ほかの工程への影響をあらかじめ想定し、最大限リスクを減らせる努力が必要です。
並行業務を行う余裕があるか
ファストトラッキングは、残業やマルチタスク化を行い従業員の業務量を増やすことで、スケジュール全体の短縮化を図ります。
業務遅延が起きた場合、1人の従業員が複数のタスクをこなしたり、業務範囲が広くなったりするなど、業務負担の増加につながります。
そのため「悪いマルチタスク」が発生しないように考慮することが重要です。
プロジェクトに関係する情報やタスクの進捗は従業員同士で共有し、プロジェクトメンバー全員でプロジェクトに取り組む必要があります。
クラッシング・ファストトラッキング以外の遅延解消に役立つ方法
スケジュールの遅延解消に役立つ方法に、CCPM(クリティカルチェーンマネジメント)という方法があります。
CCPMは、プロジェクトタスクの一つひとつに設けられたバッファを短縮し、スケジュールの遅延を最小限に抑える方法です。
一般的なタスク管理は、工程一つひとつにバッファが設けられており、バッファがあるせいで作業を後回しにしてしまうこともあるでしょう。
この各工程のバッファを短縮させ、プロジェクト全体のバッファとして一元管理します。
各タスクからバッファを取り除くことで、タスク間のスケジュールの余裕がなくなります。
「まだ時間があるから大丈夫」という心理的な余裕が排除され、迅速にプロジェクトに取り掛かかれるようになった結果、スケジュール全体の短縮が可能になるでしょう。
CCPMでは、工期を明確にする必要がある以上、必然的にスケジュールを可視化できるようになっています。
スケジュール管理によってタスクの進捗具合が一目でわかるため、遅延部分が明らかとなり、早期的な対策が打てます。
まとめ:クラッシングとファストトラッキングは目的によって使い分けが必要
この記事では、プロジェクトのスケジュール遅延解消法を2つ紹介しました。
1つ目のクラッシングは、遅延が発生しそうなタスクにリソースを集中投下する方法で、品質を確保しながら遅延解消を目指します。
一方のファストトラッキングは、プロジェクトにおける複数のタスクを同時進行させて、スケジュールの遅れを回避する方法です。
それぞれにメリットとデメリットがあるため、目的に合わせて使い分けるか、同時進行させて互いの利点を最大限に活かしましょう。
「リソースを割く予算がない」「チームメンバーの業務量が現状で限界ぎりぎり」という場合は、プロジェクトマネジメントの最も基本的な手法であるCCPMを活用してみてはいかがでしょうか。
当社ビーイングコンサルティングは、CCPMのコンサルティングで多数のクライアントを成功に導いてきました。
こちらの資料にCCPMの定着ポイントをまとめているので、まずはご一読ください。