プロジェクトでは何かと対立やジレンマが生じやすいものです。

目先の利益を追求するのか、それとも長期的な視点でマネジメントを行うのかといって、頭を悩ませるプロジェクトマネージャーの方も多いのではないでしょうか。

プロジェクトにおける対立・ジレンマの問題解決に役立つのが、TOCのアプローチ方法のひとつである「対立解消図」です。

対立解消図を使えば、対立している課題を視覚化したうえで適切な解決策を考案できます。

結果としてプロジェクト運営のジレンマに悩まされる機会も抑えられるでしょう。

本記事では、対立解消図の仕組みや読み解き方を詳しく解説します。

コツさえつかめば誰でも対立解消図の作成や理解が可能です。

プロジェクトにおける問題の捉え方

まとめ:残業時間を減らしてプロジェクトの生産性を高めよう

問題解決策を考える際に、まずは問題が生じている背景を捉えることが重要です。

「問題」は何の対立もなく、自分の考え通りに行動できる状態であれば、既に解決に至っているはずです。

しかし、問題が問題として居座り続けるということは、考え通りに行動できない「対立(ジレンマ)」が存在すると捉えることができます。

今回ご紹介する対立解消図(CRD)は問題の背後にある対立を明らかにし、解決に繋げるツールです。

対立解消図(TOCクラウド)の概要

対立解消図は、対立する問題の背景にある制約を発見し、解決することを目的としたツールです。

対立する問題を図で示し、背景を深堀りしていくことで共通の目的を発見し、その共通目的を基に解決策を導き出していきます。

対立解消図は、TOC(制約条件の理論)内にあるクラウドという手法を日本語にしたものであることから、TOCクラウドと呼ばれることもあります。

TOCとは、工程全体の中でボトルネック(制約)となっている箇所を探し出し、集中的に改善することを基本としたマネジメント手法です。

TOCについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

関連記事:マネジメントの重要略語「TOC」をプロが徹底解説!

対立解消図の例

例としてあるサプライチェーンの責任者が「店舗や集約拠点に在庫が多い」という問題に頭を抱えている状況を取り上げてみましょう。

この場合、問題を対立解消図として表しますと以下のようになります。

※ここでは作り方の詳細は記載いたしません。

【対立解消図】

―→ :○するために△する必要があるなぜならば□だからだ

対立解消図の見方

  • A「儲け続ける」為にはB「売上を確保する」必要がある。
  • B「売上を確保する」為にはD「在庫を多く持つ」必要がある。
  • なぜならば[仮定:モノがないと売れない、その時に顧客が…]だからだ。

一方で、

  • A「儲け続ける」為にはC「コストを抑える」必要がある。
  • C「コストを抑える」為にはD’「在庫を多く持たない」必要がある。
  • なぜならば[仮定:在庫を抱えると在庫管理費用が掛る、売れないと不良在庫…]だからだ。
  • 結果としてD「在庫を多く持つ」とD’「在庫を多く持たない」が対立する。

対立解消図の読み解き方

ポイントは共通の目的に対して異なるニーズがあり、そのニーズを満たすための行動で対立しているという点です。

「在庫を多く持つ」と「在庫を多く持たない」の一方の行動を選択すると、異なるニーズを満たす事ができません。

販売や売上に責任を持っている組織では在庫を多く持ちたい、コストに責任を持っている組織は在庫を減らしたいと考えます。

そこでよく取りがちな解決策の1つとして、売上上位の品目のみ在庫を多めに置くということです。

そうするとその品目が売上上位のうちは回転率が良い可能性がありますが、需要が下火になると一気に在庫を抱えることになります。

いかがでしょうか?

問題解決の際に、つい妥協案を探り合う、または問題そのものについて直接アプローチしがちです。

問題が発生している背景をシンプルに対立として捉えて表現してみると、満たすべきニーズがあり、対立した行動を右往左往したり、妥協案を探り合うことをしたりするのではなく、両方のニーズを満たす解決策を考えることで真の問題解決に繋げられます。

対立解消図を使った問題解決へのアプローチ方法

ここでは対立解消図を使った問題解決へのアプローチ方法について解説します。

対角の関係性をもとに対立関係を把握する

対立解消図の重要な要素の1つとして対角の関係性があります。

問題の背景として、共通の目的(A)に対する異なるニーズ(B、C)を満たすための行動 (D,D‘)が対立していることを考慮すると、Dの行動がCのニーズを、D’の行動がBのニーズを阻害することがなければ対立は解消しますので、この斜めの関係をチェックし確かに対立していることを確認しましょう。

結果として、一方のニーズを阻害しないことが分かり、対立自体が思い込みであることに気付く場合もあります。

対立の背景にある目的や仮定に着目する

対立解消図を活用するポイントは、対立の背景にある目的や仮定に着目することです。

目的を達成するためのその行動には、”そうすべきだ”という「仮定」があります。

TOCの考え方のひとつである「問題を作った時と違うレベルや視点で考える」とは、問題を対立として捉え、対立する行動の背景にある目的や仮定を見ることです。

上記の対立解消図で、BとDの問題を検証してみると、在庫を多く持ちすぎずに、必要なモノが必要な場所に必要な数がある状態(アベイラビリティ)を実現できれば対立が解消します。

アベイラビリティを実現するための解決策のひとつとしては、「需要予測精度を上げる」というアプローチがあります。

例えば、商品のバリエーションが少ない少品種多量生産の環境では、重大な問題が発生せずに、需要予測精度を上げることである程度は対応できました。

しかし、時代の変化とともに多品種少量生産へ推移している状況で、かつ消費者趣向の多様化、グローバル展開などの要素により、需要予測精度の向上では対処しきれず、結果として在庫を多く持つことで対処しようとするケースが散見されるようになってきました。

要するに、問題が作られた時と同じ考えのレベルで解決しようとしているとも言えます。

そこで、TOCのソリューションでは需要予測精度に頼りきるのではなく、在庫を多く持ち過ぎずにアベイラビリティを実現できる方法を確立しました。

※需要予測ではなく、多頻度補充と在庫水準を動的に変動させる(Dynamic buffer management)ことで実現しています。ここではソリューションの詳細は記載しませんが、同サイトの「見込生産」に関する記事をご参照ください。

まとめ

まとめ:役割を理解して効果的なオペレーションマネジメントを実施しよう

今回の連載では、先人の言葉である「我々の直面する重要な問題は、それを作った時と同じ考えのレベルで解決することはできない」について考え、TOC流の問題の捉え方対立解消図とその解決のアプローチをご紹介しました。

コンサルティングにおいても行動や考え方の変化に伴い対立は必然的に発生します。

実際に現場で対立解消図を使うこともありますし、頭の中ではこのような思考で解決策を熟考しています。

ビジネス環境だけでなく、プライベートでも多いに活躍してくれますので、まずは身近な問題について気軽にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

きっと今までと違った視点で物事を捉えるチャンスになるはずです。

 

以上

チーフコンサルタント
西郷 智史

この記事は、弊社サイトで過去に掲載していた内容を再掲載しております。