前回「悪いマルチタスク」が本当に効率を低下させているかどうかを実感できる簡単なゲームをご紹介しました。

この仕事の効率を下げてしまう「悪いマルチタスク」。

組織のフローを阻害する元凶とも言われ、改善するだけで飛躍的な効率化が期待できます。

一方で、

「マルチタスクは本当に悪いことなのか?」

「マルチタスクで行ったほうが効率は良いはずだ」

「マルチタスクで行わないと間に合わない」

という声をお聞きすることがあります。

1つのリソース(人、機械など)が“複数のプロジェクト”の“複数の作業”に割り当てられていることはよくある状態です。

問題は「現在実行している作業を中断して、他の作業を実行する」ことで生まれてしまいます。

日常生活の中で、「悪いマルチタスク」によって起こっている問題をいくつか。

例えば、「歩きスマホ」。

歩きスマホを実行している本人としては、

・歩いて目的地に向かう

・スマートフォンで情報を収集/発信する

という2つの作業を同時に実行しており、効率的だと感じているのでしょう。

しかし、一般的には「歩きスマホ=悪い」となっています。

なぜ、歩きスマホは良くない、歩きスマホは禁止といわれているのでしょうか?

目的地に向かって“安全に”歩くためには、周辺の歩行者や自転車/自動車といった状況を随時把握し注意を払いながら、「最適な速度で歩く」、「ぶつからないように避ける」、「歩くのを止める」といった対応を行う必要があります。

一方で、スマートフォンを操作するためには、画面に表示される情報に注意を払わなければなりません。ニュース記事を読むことに集中してしまうことや、Facebook、LINE、TwitterといったSNSで文章を作成することに集中してしまうこともあるでしょう。

その瞬間、“2つのことを同時に実行する”ことになります。

まさにマルチタスクの状態ですね。

現在実行している作業を中断して、他の作業を実行するということが、常に行われている状態になります。

“歩くこと、スマホを見ることは中断していないではないか“と思われるかもしれませんが、各作業に対する自分自身の“注意力”は中断と再開を繰り返しています。注意力が片方の作業に向いた際、もう片方の作業には必要十分な注意力が向いていないことになります。注意力が散漫になってしまいます。

結果として、周辺の人に衝突する、自転車/自動車と接触する、スマホを落とすといった問題を引き起こし、本人のみならず、周囲の人に迷惑をかけてしまうのです。

それは、時には甚大な問題に発展することさえあります。

自動車を運転する際に携帯電話を操作することが禁じられるようになったことも、まさに悪いマルチタスクを防止し、最悪な結果を生まないために取られた対策です。

他にも流れ(フロー)が阻害されていることもよくあります。

駅や商店街などで歩いている時、もう少し早く歩きたいのに、前の人が歩くのが遅くて思うように進めないという経験をされたことはないでしょうか。よく見るとその前の人はスマートフォンを操作していて、歩くスピードが周辺よりも遅くなっていたということも。

悪いマルチタスクによって注意力散漫となり、フローが阻害されている典型的な例です。
このような現象は、組織の中でも起きています。

人間の注意力には限界があり、同時に実行できることは本当に限られています。

その注意力を損なわない状態を構築して、上手くフローを維持することができれば、悪いマルチタスクになるよりも、より早く、より良い品質のものが完成するのではないでしょうか。

以上

シニア・コンサルタント
後藤 智博

 

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