私は前職でIT系のエンジニアをしていたのですが、今回は、IT業界特有の契約形態とCCPMの関係性についてお話ししたいと思います。
我々がCCPMをお客様の環境にインプリメントする際、目標の一つとして「リードタイム(プロジェクトの実行期間)の短縮」を掲げることが多々あります。
リードタイムが短くなることは誰にとっても嬉しい事のように思えますが、IT業界においては、それがあまり嬉しい事ではないと捉われることがあります。
なぜならば、「1プロジェクトあたりの売上が下がってしまう」という懸念があるためです。
IT業界のシステム開発費用は、いわゆる「人月ベース」と呼ばれる「システムを構築するために必要となった工数(人月)×単価」という計算でその対価を受け取る、という契約形態が多いと思います。
※「人月」という言葉になじみが無い方はこちらをご参照ください。
http://e-words.jp/w/%E4%BA%BA%E6%9C%88.html
実際、私の前職の場合は、顧客から「このようなシステムを作ってほしい」という依頼を受けた後に、システム開発に必要となりそうな工数(人月)を見積もり、そこに単価をかけて見積もり金額を算出して顧客に提示、金額が見合えば開発作業を開始し、システム開発が終了後にその金額をいただく、という契約形態が大半でした。
IT業界と一言で言っても、元請けや下請け、請負契約や委任契約、BtoBやBtoCなど、様々な環境がありますので、私の前職のような契約形態とは異なる組織も多々あるとは思いますが、「作業が多ければ多いほど売上が上がる」という構造の組織は多いのではないでしょうか?
そのような組織にCCPMを適用しようとした場合、「リードタイムの短縮」=「人月の減少」=「売上の減少」という構図が頭に浮かび、「CCPMを適用してリードタイムの短縮が実現できたとしても、1プロジェクトあたりの売上が下がってしまうのではないか?」という懸念に繋がってしまうことがあります。
単純な例ですが、CCPM適用前は100人月かかっていたシステム開発がCCPM適用後に75人月でできるようになったとします。1人月あたり100万円として、必要となる工数×単価が売上となりますので、適用前であれば1億円の売上、適用後であれば7,500万円の売上となります。
これまで1億円の売上が期待できたところが7,500万円になってしまうわけですから、企業にとっては非常に大きな損失です。また、見積もり金額を提示する際にも、どういった金額を提示すればよいか頭を悩ますことになります。「1億円で提示したいところだが、見積もり根拠の詳細提示を求められたらどうしよう・・」なども考えるかもしれません。
「売上が減るかもしれない・・・」
「見積もりがややこしくなりそう・・・」
CCPMはこのような環境に適していないのでしょうか?
いえ、そのようなことは決してありません!
「他社と比べて圧倒的にリードタイムが短い」という武器を手に入れたのならば、その武器を使って様々な営業戦略が取れるからです。
例えば「ボーナスの設定」という戦略があります。具体的には「ベースは7,500万円であるが、もし予定日よりも早く納品できた場合はプラス1,000万円の報酬付き」という提案などです。一見、これまでと比べると損をしているように見えますが、次のプロジェクトを早く開始・終了できるので収益力はアップしているはずです。顧客視点から見ても、これまでよりも早く納品され、かつ金額も抑えられるのであれば嬉しい事のはずです。また、「早く納品する」ということが大きなメリットを生むようなシステム(例えばショッピングサイトなど。早く稼働すればするほど売上も増えるため。)の場合は、さらに高い報酬を設定することも可能でしょう。
また、リードタイム短縮により得ることができる余剰キャパシティを研究開発などに充てることで、自社の技術力を向上させ続け競争優位性を獲得する、などの戦略も考えられます。
その他にも、従来の枠にとらわれない、お互いがWIN-WINとなる戦略を構想することができると思いますが、いずれにしろ、そういった戦略を取るためには「他社と比べて圧倒的にリードタイムが短い」という武器が必要です。言い換えれば、その武器を手に入れれば新しい戦略が展開できる、ということです。ですので、冒頭で記載した心配は御無用です。新たな戦略を構想する必要がある、ということだけ念頭に入れていただいて「CCPMを自組織内に定着させる」ことに集中していただければと思います。
最後に。
我々TOCコンサルタントは「全体を俯瞰する」ということを常に忘れないよう心がけています。
視野を広く持ち全体を見渡したうえで最適なソリューションを提供する、ということなのですが、そういった視点で見た場合に一つ思うことがあります。
ここまで「人月契約」をベースとした話をしてきましたが、そもそもそういった契約形態が本当に最適なのか?という点です。
今回は詳しくは書きませんが、「他社と比べて圧倒的にリードタイムが短い」という武器を手に入れた後に、「人月ベース」の商習慣について考えてみるときっと新しい戦略に気付けると思いますし、いずれ、みなさまのこのような取り組みをお手伝いできれば!!と思っています。
以上
チーフコンサルタント渡瀬 智
この記事は、弊社サイトで過去に掲載していた内容を再掲載しております。