自動車メーカー向けにカーナビ製品を提供するアルパイン(ALPINE)株式会社。プロジェクト管理で起こりがちな課題を解消するため、管理手法のひとつであるTOC/CCPMを導入。どのようにプロジェクトマネジメント改革を成功に導いたのか、その過程を解説する。
プロジェクトマネジメント改革の概要
アルパインは、1967年に設立された車載情報通信機器メーカーである。
主にHONDAやメルセデス・ベンツ、BMWの車種に向けたカーナビ製品を提供している。国内メーカーではあるものの、売上の約7割を米国と欧州が占めているのが特徴。
今回、実際にプロジェクトマネジメント改革に取り組んだのは、アルパインの情報システムの設計・開発を担当するアルパイン情報システム株式会社だ。同社では最先端のシステムをカーナビに実装するため、複数のプロジェクトを運営している。
アルパイン情報システムがプロジェクトマネジメント改革をスタートさせたのは、限られたリソースで、より高いパフォーマンスを発揮できるプロジェクト管理を実現するのが目的。
4つのフェーズに分けてTOC/CCPMを導入しており、今回はその流れに沿って事例を紹介する。
プロジェクトマネジメント改革を実施した背景
アルパイン情報システムは、カーナビ製品のシステム開発を担当していることもあり、営業やマーケティング、情報システムといった部署から人材を集め、プロジェクトを発足するケースも珍しくない。
しかし、発足したプロジェクトにおいて、納期遅れやシステムリリースの延期、スコープ縮小といったITプロジェクトで起こりがちなトラブルに悩まされていた。
そこで、プロジェクト管理手法のひとつであるTOC/CCPMの導入を決意する。
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問題解決の方向性
プロジェクトマネジメント改革の方向性としては、問題解決プロセスを第1フェーズから第4フェーズに分け、TOC/CCPMを導入して組織的プロジェクト管理の実現をはかる。まずはパイロットプロジェクトから運用試験を開始する。
最終的なゴールは次の通りである。
- 全プロジェクトの見える化
- 最適なタイミングでのリソース確保
- 課題を事前に察知し対策を打つ
結果として、限られたリソースを活用し、より高いパフォーマンスを発揮できるプロジェクト管理を実現する。
プロジェクトマネジメント改革の詳細
ここでは、プロジェクトマネジメント改革の詳細について解説しよう。
前述した4つのフェーズは次のようなプロセスに分類されている。
- 第1フェーズ:トライアル実施
- 第2フェーズ:全社展開に向けた準備
- 第3フェーズ:組織的プロジェクト管理の実施
- 第4フェーズ:効果検証と文化の定着化
詳細は次の通りである。
第1フェーズ:トライアル実施
第1フェーズにおける目的は、パイロットプロジェクトにTOC/CCPMの理論を適用させてみて、実際に稼働中のITプロジェクトへの応用可否を確認することである。
最終的には次の2つのゴールを目指す。
- 手遅れになる前にプロジェクト全体の遅れを認識できるかを検証する
(バッファマネジメントの効果としての「先手管理」) - システム部内で正式活用する場合に想定される課題を認識する
なぜ、このようなゴールを設定したのか。それは、現状のプロジェクト管理において、PDCAサイクルがうまく回転していない課題を抱えていたからだ。以下の図のように、「Plan・Do・Check・Action」の各ポイントで、プロジェクトの進捗に悪影響を及ぼす問題が生じていた。
そこでまずは、課題が発生する原因を明確化する。そのうえで、「どのような課題を(何を)・どんな姿に(何に)」改善するのか、という点を洗い出した。
具体的な施策へと落とし込み、実行に移せたからこそ、得られるものも大きかったという。
例えば、問題に対して組織的に先手管理を実行した結果、アラート発信がなくても、管理者側からリアルタイムに状況確認を行えるようになった。
また、バッファ管理を明示するため、残日数管理やバッファ状況グラフを導入することで、俯瞰的なプロジェクト状況の把握や認識共有に結び付いている。
第2フェーズ:全社展開に向けた準備
次に、第1フェーズのパイロットプロジェクトから得たノウハウをもとに、プロジェクト運営の見える化に着手する。具体的な方法は次の通りである。
- 社内報告会:CCPM経験者からのコメントをチーム内で共有
- 全社勉強会:社内のCCPM基礎セミナーに34名が参加
- マネジメントサイクル構築:3階層によるマネジメントサイクルを設計
- 社内組織の役割を見直し:社内にPMOを設置し役割を明示
PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)とは、部署の枠を越えて社内プロジェクトの支援を行う組織を指す。アルパイン情報システムでは、PMOをプロジェクトマネージャーと同列に配置し、以下の図のようなマネジメントサイクルを構築した。
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実際にTOC/CCPMを進める際は、まずプロジェクト単位で朝会を開く。その後、担当マネージャーがプロジェクト調整ミーティングで対策を指示する流れとなる。
プロジェクトチームからの報告については、報告方法の定型化と報告内容の簡素化に取り組んだ。
例えば、報告書を提出するためには、「現状・遅延理由・課題/リスク・相談事項」という4つの定型項目を埋めなければならない。遅延が発生した場合に備えて、原因と対策検討結果の報告というルールが定めらたのも特徴である。
第3フェーズ:組織的プロジェクト管理の実施
第2フェーズでプロジェクト運営の見える化を実施した結果、「プロジェクト以外の業務を含めた全体管理」と「リソース調整」の箇所で課題が明らかになった。
TOC/CCPMの理論を組織的なプロジェクト管理に適用させるためには、上記2つの課題への対処は必須だといえる。
例えば、TOC/CCPMを適用しても計画通りに進まない箇所があれば、プロジェクトの難易度上昇やリソース不足という2つの要因が考えられる。その要因を紐解いた結果、プロジェクトを詰め込みすぎてTOC/CCPMが機能しない点が仮説として提示された。
上記のような問題点に事前に対処するためには、各プロジェクトの優先度を見極めたうえで、案件の集中化をはかる必要がある。そこで、稼働中の11プロジェクトのうち4つを凍結し、残り7プロジェクトに集中することを決定する。
ほかにも、第1フェーズと第2フェーズを経て、次のような変化が生まれたのも特徴である。
第4フェーズ:効果検証と文化の定着化
最後の第4フェーズでは、これまでに実施してきたプロジェクトマネジメント改革の成果を、活動報告書(2014年度)として整理する。
2013年度の実績と比べて、2014年度には大幅に数値が改善したことがうかがえる。完了プロジェクト数は7個から17個へ、計画達成率は20%、納期遵守率も59%増加。プロジェクト管理における主要KPIのほとんどが改善されたといえるだろう。
上記のような好成績を記録できたのは、次の4つの条件が整っていたからだという。
- 適用対象となる組織規模が小さかったこと
- マネジメント層から強力なバックアップを得られた
- 推進担当者の熱意がチーム内にうまく伝播した
- ビーイングコンサルティングによる的確なアドバイスを得られた
今後の展開
好成績に甘んじず、歩みを止めずにさらなる改善を進めようとするのがアルパイン情報システムの強みだろう。事実、TOC/CCPMの導入で一定の成果を得たものの、プロジェクトマネジメント改革はいまもなお進行している。
今後の展開としては、「個人プレーからチームプレーへ」というスローガンのもと、成功体験を全社に展開。アクシデントがあってもプロジェクトを失敗させない、計画を守れる組織を目指す。
すでに第4フェーズまでの運用が済んで間もなく、TOC/CCPMの定着化に向け、サポート資料の準備やCCPM運用構築、負荷計画シミュレーションの作成などを実施している。さらなる飛躍に向け、アルパイン情報システムの歩みは止まらないだろう。
さて、ここまでアルパイン情報システム様のTOC/CCPM導入事例を紹介しましたが、自社でもTOCやCCPMの理論を活用したいと望むプロジェクトマネージャーの方も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ導入しようと思っても、「難しすぎて理解が進まない」「どこから手をつけて良いかわからない」と悩んでいるケースもあるでしょう。
そのようなときは、TOC/CCPM理論にもとづいたプロジェクトマネジメントのコンサルティングを行う、ビーイングコンサルティングにご相談ください。
当社ビーイングコンサルティングは、数多くの企業でプロジェクトマネジメントを成功に導いてきたプロフェッショナルで、コンサルティングのほかにも「プロジェクト計画見える化サービス」や「段階的プロジェクトセットアップ支援サービス」を提供しています。
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