「現行プロジェクトが本当に自社に価値をもたらしているのか」
「プロジェクトの進行具合をより客観的な数値で評価できないか」
プロジェクトマネジメントを実施するうえで、このように悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。
上記のような課題を解決できるのが、今回紹介するEVM(Earned Value Management)です。
EVMは、プロジェクト全体を金銭的な価値で評価する手法で、より客観的に進捗具合を見つめ直せます。
本記事では、EVMのメリットや指標の使い方を徹底的に解説します。
プロジェクトマネジメントに用いられる「EVM」とは?
EVMは「Earned Value Management」の略語で、プロジェクトを金銭価値という定量的な評価指標で可視化し、コスト超過の課題解決や客観的な分析につなげる方法です。
EVMが初めて活用されたのが、1960年代のアメリカです。
当時、アメリカでは国防省のミサイル調達規則が見直され、より効率的なミサイル開発計画のためにEVMが導入されました。
その後、日本でも2003年に経済産業省が「EVM活用型プロジェクトマネジメント導入ガイドライン」を公開し、国内でも徐々に認知が高まり、現在に至ります。
もともと軍事的な目的で導入されたEVMでしたが、いまでは主にビジネス分野での活用が進んでいます。
EVMでプロジェクトマネジメントを行うメリットとデメリット
ここでは、EVMのメリットとデメリットについてそれぞれ解説します。
EVMを用いるメリット
EVMを用いるメリットは次の通りです。
- 進捗管理の効率化が可能に
- 問題の予測や早期対応が可能に
進捗管理の効率化が可能に
EVMが得意としているのは、プロジェクトの進捗の可視化です。
体感的に遅れているかどうかといった感覚ではなく、明確に数値として表すことで、正確に進捗状況を把握できるようになります。
時間的な観点に加えてコスト面も考慮に入れると、プロジェクトを複眼的に見れるようになり、より効率的なプロジェクトマネジメントが可能になります。
問題の予測や早期対応が可能に
プロジェクトの現状を把握するだけでなく、将来的な予測まで立てられるのもEVMならではのメリットです。
例えば、出来高計画値(PV)に対して出来高実数値(EV)が大幅に下回りそうであれば、あからじめ増員や問題箇所の発見などにより、早期的な対応が可能になります。
将来的に予算がオーバーしてしまうかどうかも、完成時総予算(BAC)とコスト実績値(AC)の推移を検証すると、より早いタイミングで認識できるようになるでしょう。
EVMを用いるデメリット
EVMのデメリットは次の通りです。
- 品質管理が行いづらい
- クリティカルパスの管理には不向き
品質管理が行いづらい
EVMでコストとスケジュールは管理できても、品質管理を行う方法は盛り込まれていません。
そのため、品質管理のためには別の管理手法を併用する必要があります。
EVMのデメリットを解消するための手法が、ボトルネックを発見して改善を実施するTOCです。
TOCについては、後ほど詳しく解説します。
クリティカルパスの管理には不向き
クリティカルパスとは、プロジェクトにおける最も長い工程を指します。
クリティカルパスで遅延やトラブルが発生すると、全体の遅延に影響を与えます。
EVMでは、クリティカルパスと別の工程を同じ尺度ではかるため、長期間の工程で発生し得る遅延やトラブルを見つけづらいデメリットがあります。
EVMの指標とは?
EVMには、現状を正確に把握するための多様な指標が用意されています。
それらの指標を用いて計測することで、定量的に数値を算出できます。
ここでは、EVMの指標と算出できる数値について解説していきます。
EVMの4つの重要な指標
EVMの指標をグラフ化することで、プロジェクトの状況を可視化できるようになります。
特に重要な指標は次の4つです。
PV(Planned Value):計画予算
特定の段階における予算超過を見極めるために使用される指標です。
マイルストーンによる基準を設けて、各時点までの完了タスクや予算を決めます。
A地点からB地点における完了予定時の予算、といった具合に基準値を設定します。
EV(Earned Value):出来高
特定の時点でのコストの合計値を表し、その時点での成果をはかるための指標です。
PVと比較することで進捗を正確に把握できます。
AC(Actual Cost):実コスト
特定の時点までにかかったコスト合計を表す指標です。
PVとの比較を行い、計画通りに進行していればACとPVは等しくなります。
ACがPVを超過している場合は、現状予算をオーバーしている状態となり、対策が必要になります。
BAC(Budget at completion):完成時総予算
プロジェクトの計画段階で算出を行う指標です。
プロジェクトの完了後、実際にかかった総コストがBACを超過した場合は予算オーバーとなります。
EVMで算出できる数値
前述した4つの指標を用いて、現況を把握するための数値を算出できるのもEVMならではの特徴です。
ここでは、EVMで算出できる数値とその意味について解説します。
SV(Schedule Variance):スケジュール差異
現時点でのコスト「EV」と、将来的なコスト「PV」を用いて算出します。
- EV - PV = SV
SVがマイナスとなる場合、プロジェクトの遅延を示しています。
定期的なSVの算出によりスケジュールの修正を行います。
CV(Cost Variance):コスト差異
特定の時点までにかかったコスト「AC」を、同じ時点までに完了している分の予算「EV」から引いて算出します。
- EV - AC = CV
CVがマイナスとなる場合は、その段階での予算超過を意味しています。
SPI(Schedule Performance Index):スケジュール効率指数
スケジュールの進捗度合いを評価するための指数です。
- EV ÷ PV = SPI
SPIが1よりも大きければ、当初の想定よりも順調に進行している状態を表します。
反対に、1を下回る場合は遅延を意味しています。
CPI(Cost Performance Index):コスト効率指数
プロジェクト現時点のコストが予想コストと比較して、どの程度の水準かを表す指数です。
- EV ÷ AC = CPI
CPIが1を大きく上回ると、計画コストに修正が必要です。
1を下回る場合は、計画よりもコストが抑えられていることを示します。
ETC(Estimate To Completion):残作業コスト予測
完了までに残っている作業の予算コストを予測するための指数です。
- (BAC - EV)÷ CPI = ETC
これまでの実績から残コストをはかれるため、今後どの程度のコストが必要か評価したいときに向きます。
EAC(Estimate At Completion):完了時コスト予測
EACは、現時点でのプロジェクト完了時のコストを見積もることが可能です。
- AC + ETC = EAC
従来のペースでプロジェクトを進行した場合、最終的にコストがどの程度になるか評価する際に役立ちます。
VAC(Variance At Completion):完了時コスト差異
現段階で見積もったプロジェクトにかかる総コスト「EAC」を、最初に計画した総予算「BAC」からを引いて算出します。
- BAC - EAC = VAC
VACがプラスであれば計画予算内におさまっており、マイナスであれば予算を超過していることを意味します。
メリットの多いプロジェクトマネジメント手法「TOC」とは?
EVMは、効率的にプロジェクトマネジメントを実施できる反面、デメリットも存在します。
EVMのデメリットを解消し、より効果的なマネジメントを行うには、TOCという手法が効果的です。
多くの企業で導入されるTOC
TOC(Theory of Constraints)は、日本語で制約条件の理論と呼ばれるマネジメント手法です。
パフォーマンスを妨げている制約条件に注目して、プロジェクト全体の改善を行えます。
TOCは、「どれだけ複雑なシステムでも、常にごく少数の要素に支配されている」という仮定のうえに成り立っており、ごく少数の要素、すなわち制約条件がパフォーマンスのカギを握っていると考えます。
プロジェクトの管理だけではなく、企業のパフォーマンス改善にも役立つため、TOCを導入することで企業規模を問わず、最小のコストで大きな改善効果を見込めます。
TOCの詳細についてはコチラのページで紹介しています。
プロジェクトマネジメントに最適なCCPMとは?
TOCの中でもプロジェクト管理に特化したマネジメント手法がCCPMです。
CCPMとは、「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」の略語で、EVMの弱みであるクリティカルチェーンにアプローチできるようになります。
CCPMの最大の目的は、トラブルの発生時に納期の遅延を発生させない点です。
具体的には、次の4つの手順に沿ってマネジメントを実施します。
- プロジェクト全体の進捗の把握
- 遅延の危険性の可視化
- タスク優先度の明確化
- 適切なリソースを投入のコントロール
まとめ:EVMを活用してより価値のあるプロジェクトマネジメントを
金銭的な価値という指標でプロジェクトを評価できるEVM。
従来のプロジェクトマネジメントで課題だった、プロジェクトそのものの価値や進捗具合の適正な評価が可能になります。
さらに、EVMの弱みを解消できるTOCやCCPMを組み合わせると、それぞれのメリットを組み合わせた、より適正なプロジェクトマネジメントが実施できるようになるでしょう。
ただし、EVMに用いられる指標や指数はいずれも複雑で、既存のプロジェクトに取り入れようと思っても、思うように導入が進まないケースも多いのではないでしょうか。
もし、「導入しようとしたが、かえって業務が煩雑になった」「チームメンバーの理解がなかなか進まない」とお悩みであれば、プロジェクトマネジメントのコンサルティングで多数の実績があるビーイングコンサルティングにご相談ください。
より詳しい内容を知りたい方は、こちらの資料に目を通してみてください。