「“もうひとつのマルチタスク”って“良いマルチタスク”でしょ?」、こう思われた方もいるでしょう。
でも今回は、それとは別の「マルチタスク」です。
マルチタスクは我々からスピードを奪い、プロジェクトの納期を危険にさらす、だから良くない。逆に、マルチタスクをやめれば、スピードが取り戻せてタスクやプロジェクトを早く完了させることが可能になる。しかし、これはもう常識で、もうマルチタスクはやっていないというケースもみられます。
では、マルチタスクしていなければ、すでに本来のスピードを発揮していると言えるでしょうか?
実はマルチタスクはしていなくてもスピードが落ちているケースがあります。別のあることが原因で。
そのある原因とは「リソースの希薄化(きはくか)」です。「リソースの希薄化」は作業効率をモノサシ(最優先の評価基準)に使うことで生じます。マルチタスクの影に隠れて見落とされがちですが、マルチタスクと同じように、我々からスピードを奪います。
仕組みはこうです。
作業効率をモノサシにすると、組織全体に「効率を高めよう!」というチカラ(プレッシャー)が働きます。すると、全員にタスクが割り振られ、全員が常に「働いている」「忙しい」という状況になります。そうなると、”誰か”のタスクが遅れても助け合えず、長引くタスクが増え、プロジェクトの進捗は一番遅いタスクで決まるため、次第にプロジェクト全体が遅れ出します(あるいは、遅らせないためにいろんな手を打つ必要が出てきます)。すると「作業効率」のプレッシャーがさらに高まり、結果としてプロジェクトがもっと大きく遅れ出す(あるいは、遅らせないための追加策が必要になる)…という悪循環に陥る。
「作業効率」を追うことは、「専門性」を追うことにもつながります。
「専門性」はとても大事です。しかし、注意も必要です。専門性を追いすぎると、これはあの人しかやれないというタスクが増えます。そのようなタスクは大型化、長期化しがちなので、作業効率による悪循環に拍車がかかり、どんどん本来のスピードを発揮しづらい状況になっていきます。
これが「リソースの希薄化」です。
これは、人材力という観点からはレベルアップしているのに、皮肉にも、組織全体としては能力が薄まってパワーダウンしている状態です。
また、担当者レベルではやっていなくても、状況からするとまるで組織レベルの「マルチタスク」をしているようなもので、いわば「もう一つのマルチタスク」とも言えます。
うちは大丈夫かな? と気になった方は、次の質問でチェックしてみてください。
Q1: 人にタスクが付いて回ることはありますか?
Q2: 特定の人の手が空くのを、ずぅーっと待っていることはありますか?
どちらか一つでも「Yes」なら、「リソースの希薄化」が起きていて、まだ本来のスピードを発揮できていない可能性があります。もしQ1で「違う部署に異動してからもタスクが追いかけてきた」という経験をお持ちなら、「リソースの希薄化」は完全に起きています。
「作業効率」や「専門性」そのものが悪いワケではありません。しかし、「リソースの希薄化」でスピードが失われ、プロジェクトの納期までが危険にさらされているなら、手を打つ必要があります。
「作業効率」や「専門性」とうまくつきあい、「リソースの希薄化」を解消できた世界はこうです。
作業効率への過度なプレッシャーから解放され、もしもにそなえて人材を(エースでさえ)戦略的に温存することも可能になり、遅れたタスクに強力助人として投入でき、遅れが早期に解消し、次第にプロジェクト全体が加速する。そして、隠れた(これまで無駄にしてきた)能力まで掘り起こされ、さらに、スキルアップに時間を割いたり、新しいことにもどんどんチャレンジしたりできている。
こう分かっていても、やむなく、今までのやり方を続けている、そんな場合も少なくありません。「全員を常に忙しく vs. もしもに備えて戦力温存」や「専門性を突き詰める vs. 多能工化を推進する」のようなジレンマを抱えながら。
どうすればこのようなジレンマを解消し、「マルチタスク」や「リソースの希薄化」も起こさずに、プロジェクトの成功確率を高められるようになるでしょうか?
その答えはCCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)にあります。CCPMは、「すべての対立は解消できる」という信念に基づいて、作業効率とは別のモノサシを使い、リソースの”本来”の最大活用を、トコトン追求して生まれたプロジェクト管理の手法です。
今回のまとめ:
プロジェクト成功のカギは、「リソースの希薄化」の解消とそれを可能にしてくれるCCPMである。
次回から少しずつ、理論も押さえながら、CCPMによるプロジェクト運用の具体的な手順や秘訣などを紹介してきたいと思います。次回も、ぜひお読みください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
株式会社ビーイング
取締役 開発部長
宇治川 浩一
この記事は、弊社サイトで過去に掲載していた内容を再掲載しております。