オリンパスTOC-CCPM事例

1919年に創業し、2019年で100周年を迎えたオリンパス株式会社。社内に多数のプロジェクトを有する同社だが、それだけに多くの課題を抱えていた。TOC/CCPMの手法を活用し、どのようにプロジェクト改革を成功に導いたのか、その過程を解説する。

プロジェクトマネジメント改革の概要

オリンパス株式会社は、医療・科学・映像の3つの分野で精密機器を製造・販売しているメーカーである。そのなかでも消化器内視鏡は世界シェア約7割に達し、医療用の光学機器や顕微鏡分野で世界大手のひとつに数えられる。

大規模な組織であるがゆえに社内で数多くのプロジェクトが同時進行しているが、現場マネジメントと組織マネジメントの認識不一致というリスクが顕在化するおそれがあった

そこで、問題の早期検知・対策ができるよう、TOC/CCPMの導入を決意する。プロジェクト状況を可視化して課題解決をはかった。TOC/CCPMについては以下の記事で詳しく解説している。

関連記事:プロジェクトを成功させるマネジメント|CCPMのプロセスを解説

プロジェクトマネジメント改革を実施した背景

オリンパスは2018年に、新規医療機器を開発するための大規模プロジェクトを始動させた。

社内における同プロジェクトの優先順位は高く、納期遅延は市場シェアの確保や収益性の向上を大きく妨げる要因となる。しかし、医療機器という分野のプロジェクト進行の難易度の高さ、大規模プロジェクトゆえの管理の難しさといった問題をクリアしながら納期を遵守するのは難しい。

そこで、TOC/CCPMを用いてプロジェクト状況を可視化し、プロジェクトマネジメント基盤構築に舵を切ることにした。

解決の方向性

プロジェクト運営のなかで特に問題となったのが、プロジェクトマネージャーによる現場マネジメントと、上位マネージャーによる組織マネジメントの認識不一致だ。

現場にいるプロジェクトマネージャーが「このような問題が発生しています」と報告を行っても、上位マネージャーは「プロジェクト内で解決すべき問題だ」といって取り合ってもらえないケースなどの、マネージャー同士による問題の認識に大きな差があり、問題対策遅延というトラブルが発生するおそれがあった。

そのため、次のような3つの見える化により、現場マネジメントと組織マネジメントの認識一致をはかることにした。それぞれのフェーズは後ほど詳しく解説する。

  1. プロジェクトの目的の見える化
  2. プロジェクト計画の見える化
  3. 進捗状況と問題対策状況の見える化

プロジェクトマネジメント改革の詳細

1. プロジェクトの目的の見える化

一般的に、明確な目的を定めないままプロジェクトを発足するケースは珍しくない。これでは、いつまでに何を達成すれば良いのか、組織内で認識に違いが出るのも不思議ではない。

そこで、TOC/CCPMの理論をもとに、まずはプロジェクトの構想を練ることからスタートする。

その際に活用したのが、プロジェクトの詳細を記述するときにTOC/CCPMで推奨されている「ODSC」という形式である。ODSCは、「目的(Objectives)・成果物(Deliverables)・成功基準(Success Criteria)」の頭文字から成り立っている。

01.ODSC

このような3つの指標が明文化されていることで、組織は目的を見失わずにプロジェクトを進行できるようになる。詳しくはこちらの記事を参考に。

関連記事:プロジェクトの成功にはODSCの設定が重要!理由や決める流れを解説

ODSCによって目的が明確になった結果、組織に以下のような恩恵が生まれている。

BEFORE ・いつまでに何を達成すべきか、組織内で認識に違いがある
・認識を擦り合わせる環境がない
AFTER ・プロジェクト全体で目指すべきゴールが明確になったことで、現場・マネージャーともに安心してプロジェクトをスタートできた
・すべてのプロジェクトにODSCを用いた結果、プロジェクトごとの特徴が明確になり、必要な支援を行いやすくなった

2. プロジェクト計画の見える化

続いて、前述したプロジェクトの構想を具体的な計画に落とし込むため、プロジェクトネットワーク図の構築に取りかかる。

今回はあえて模造紙や付箋を使ったアナログな手法を採用した。そのほうが関係者全員が全体を俯瞰的に把握でき、無駄なタスクを排除したり、議論が活性化したりするためである。

02.プロジェクトネットワーク図のイメージ

上の図のようなイメージをもとに、アナログ手法で作業を進めていく。

03.ネットワーク図作成の様子

04.アナログ手法で作成したネットワーク図

これでプロジェクトの全体像が完成したので、ビーイングコンサルティング製のCCPMソフトウェア「BeingManagement3」に内容を落とし込み、クリティカルチェーンとバッファの設定を行った。

05.クリティカルチェーン見直し

今回のプロジェクトでは結果として次のような効果が現れた。

BEFORE ・一部のメンバーのみで工程表を作成していた
・大まかな日程しか記載されていないため、必要なタスクの洗い出しができているか不安を抱えていた
・納期を守れるか不安が残るなか、精神論でプロジェクトが進行していた
AFTER ・複数の関係者の意見やアドバイスをもとに正確にタスクを抽出できた
・依存関係を意識しながらタスクを抽出できたため、タスクの抜け漏れの不安が大幅に軽減した
・クリティカルチェーンが明確になったことで、注視すべきポイントを把握しやすくなった
・クリティカルチェーン上でタスク分割や合流ポイントの見直しなどを行った結果、リードタイム短縮につながった

3. 進捗状況と問題対策状況の見える化

プロジェクト計画が作成された後、いよいよプロジェクトがスタートした。

過去に発足されたプロジェクトでは、スタート直後、傾向グラフに危険な兆候が現れたという。

そこで本プロジェクトでは、プロジェクトマネージャーを中心にマイルストーンの見直しや、サブチームを含めた見積もりの再検討を実施した。組織全体で速やかにバッファ回復策の検討ができるようにという配慮からだ。

また、プロジェクトスタート直後から、次のようなマネジメントサイクルを繰り返し実行することを徹底している。

  1. 残日数登録
  2. 傾向グラフ確認
  3. 課題エスカレーション
  4. 最優先タスクの確認と問題への対応

06.マネジメントサイクルを徹底

ここまでに実施したプロジェクトマネジメント改革の結果、オリンパスは最終的に次のような成果を生み出した。

BEFORE ・個々のタスクの進捗状況は把握できていたものの、プロジェクト全体の進捗状況が把握できないでいた
・優先すべきタスクや課題が把握しづらく、すべてに最優先で対応する必要があった
AFTER ・傾向グラフをもとにプロジェクト全体の進捗状況を一目で把握できるようになった
・タスクの遅延や問題対策の滞留によるリスク、さらには最優先で取り組むべきタスクや課題が明らかになった

プロジェクトマネジメント改革を実施したお客様の声

3段階のフェーズに分けてプロジェクトマネジメント改革を実施したオリンパス。ここでは、実際にその活動に加わった担当者のコメントを紹介する。

活動を実施する前に抱えていた問題は何ですか?

これまでの管理手法では、クリティカルチェーンの把握が十分ではありませんでした。プロジェクトが遅延する要因のひとつだったかと思います。私が担当するプロジェクトでも、同様のことが起きてしまう可能性は否定できない状況でした。

活動当初の状況を教えてください

複数の新しいプロジェクトを同時に立ち上げるなか、各プロジェクトマネージャーのマネジメント手法はマネージャーごとに異なっていました。

また、現場で発生したトラブルの影響を正しく上位マネージャー層へ説明することも求められており、何らかの共通化されたマネジメント基盤の導入の必要性を感じていました。

新しい基盤の導入は大変でしたか?

もちろん簡単ではありませんでした。頭のなかにあるイメージをほかの人にもわかるように表現することは難しかったですね。

そのようななか、ODSCやネットワーク図の作成を一つひとつ着実にこなしていき、プロジェクトの見える化を進めました。想定していないタスクがクリティカルチェーンの一部に入ってきた際は驚くこともありましたが、早い段階でそれが明確になったのが興味深かったですね。改めてプロジェクト管理の重要性を認識しました。

活動の結果はいかがでしたか?

以前であれば、「なぜ○○の対応に1年もかかるのか」と聞かれても、明確に答えることは難しかったと思います。しかしいまでは、しっかりとタスクの分解ができていますし、クリティカルチェーンも明確なので、その根拠を論理的に説明できるようになりました。

プロジェクトマネージャーの役割のひとつに、「プロジェクトに関する疑問を持つ人に対して、その答えを説明して納得してもらうこと」があると思っているのですが、今回の活動の結果がその一助となっています。

CCPMの考え方は組織に浸透しそうですか?

多くの部署をまたがったチームで編成される製品開発のプロジェクトでは、各チームでバッファを含みがちな傾向があり、それらが集積されるとリードタイムは長くなってしまいます。

そのような環境下において、CCPMの考え方のひとつである見積もり期間のカットやバッファ集約は、私たちの組織に高い効果をもたらすと感じました。

今後の展開

プロジェクト推進チームが狙う今後の展開は、次の2点に集約される。

  • 今回構築したプロジェクト基盤の派生プロジェクトへの適用拡大
  • 問題の早期発見・対策のサイクル加速による全体のリードタイム短縮

今回のプロジェクトマネジメント改革により、構築すべきマネジメントの全体像が明確になり、それを実行するためのガイドラインの準備も整った。この先、全体最適に向けたさらなるイノベーションが起ころうとしている。

07.マネジメントの全体像


さて、ここまでオリンパス様のCCPM導入事例を紹介しましたが、自社でもCCPMやTOCの理論を活用したいと望む企業担当者の方も多いのではないでしょうか。

しかし、いざ導入しようと思っても、「難しすぎて理解が進まない」「どこから手をつけて良いかわからない」と悩んでいるケースもあるでしょう。

そのようなときは、TOC/CCPM理論にもとづいたプロジェクトマネジメントのコンサルティングを行う、ビーイングコンサルティングにご相談ください。

当社ビーイングコンサルティングは、数多くの企業でプロジェクトマネジメントを成功に導いてきたプロフェッショナルで、コンサルティングのほかにも「プロジェクト計画見える化サービス」や「段階的プロジェクトセットアップ支援サービス」を提供しています。

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