厚生労働省が推進している働き方改革により、労働基準法や労働安全衛生法などが見直されたことで、就業規則の変更に追われている企業も多いでしょう。
企業にとっては、年次有給休暇への対応や労働時間の把握方法の変更など、見直すべき項目が山ほどあります。
しかし、いざ就業規則を変えようにも、以下のように悩んでいる人事担当者の方も多いはずです。
- 「働き方改革で就業規則はどう変わる?」
- 「働き方改革で変更するべき就業規則は?」
本記事では、働き方改革で就業規則がどう変わるのか影響する法改正や変更方法を解説します。
働き方改革関連法の法改正によって変わった就業規則のポイント
働き方改革関連法の法改正によって変わった就業規則のポイントは次の通りです。
- 年5日の年次有給休暇取得を義務化
- 労働時間の把握方法の見直し
- 高度プロフェッショナル制度対象者の明確化
- 勤務間インターバル時間の設定
- 時間外労働の上限が原則化
- 月60時間を超えた残業代の割増賃金率を50%にする
ポイントを理解しておくと、働き方改革による就業規則の変化を知れるため、対策案の設計が可能です。
それぞれのポイントを詳しく解説します。
1.年5日の年次有給休暇取得を義務化
以前までの労基法では、労働者が自ら申し出なければ有給休暇を取得できず、申請しづらい状態にありました。
厚生労働省によると、2018年における有給休暇の取得率は52.4%と、低い水準を推移しています。
有給休暇を利用せずに一年が過ぎることもありましたが、改正後は年5日の年次有給休暇の取得が義務化になります。
改正前は有給休暇の取得が就業規則に記載されていなくても問題はありませんでした。
しかし、改正後は年5回の年次有給休暇取得の条項を就業規則に追加しなければなりません。
具体的には、就業規則に基準日等付与規定や時季指定に対する有給休暇日数などの明記が必要になります。
2.労働時間の把握方法の見直し
働き方改革関連法以前は、割増賃金を正しく支払うため、労働時間を客観的に把握することを通達で規定していました。
あらかじめ決まっている労働時間で働く裁量労働制適用者や管理監督者などは対象外でした。
改正後は、健康面の観点から対象外だった者も含め、すべての労働者を客観的な方法で把握することが企業の義務になります。
具体的には、改正前の就業規則では裁量労働制適用者以外を把握すれば良くなっていました。
しかし、改正後は全ての労働者を産業医や医師などによる客観的な方法で把握する就業規則を追加する必要があります。
3.高度プロフェッショナル制度対象者の明確化
働き方改革関連法により、高度プロフェッショナル制度が新設されます。
高度プロフェッショナルとは、対象業務の対象労働者に対して労基法の労働時間や休憩、休日および深夜の割増賃金の規定を適用しない制度です。
対象業務と対象労働者は次の通りです。
対象業務 |
|
対象労働者 |
|
この制度の導入のため、労使委員会の設置が必要になります。
また、対象業務や対象労働者を明確にするため、就業規則に制度の規定や対象範囲を追加しなければなりません。
具体的には、高度プロフェッショナル制度対象者の同意規定や深夜労働の制限規定などです。
4.勤務間インターバル時間の設定
勤務間インターバル制度の導入を促進することで、労働者の心身の健康を確保します。
勤務インターバル制度が必要な理由として、長時間労働による労働者の過労が挙げられます。
過労により、業務上のミスが増加したり、職業によっては大怪我につながります。
努力義務だからこそ導入しなくても罰則はありませんが、労働者の健康を考慮すると対応することをおすすめします。
導入するにあたり、就業規則に勤務間インターバルの明確な時間を追加し、インターバルが取れない場合の対策も含め記載しましょう。
5.時間外労働の上限が原則化
法改正により、残業時間に上限が設けられます。
改正前は、残業時間の上限がなかったこともあり、長時間労働を強いられる労働者がいました。
そこで、長時間労働による労働者の健康被害が抑えるられるよう、残業の上限を月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がない限りこれを超過できないように変更となりました。
また、臨時的な事情があった場合でも年720時間以内かつ複数月平均80時間以内、月100時間未満を超えられなくなります。
ただ、法改正適用猶予・除外の事業もあります。
自動車運転の業務 | 2024年4⽉1日に上限規制を適用。ただし、適用後の上限時間は、年960時間とし、将来的な一般側の適用については引き続き検討。 |
建設事業 | 2024年4⽉1日に上限規制を適用。ただし、災害時における復旧・復興の事業については、複数月平均80時間以内・1か月100時間未満の要件は適用しません。この点についても、将来的な一般則の適用について引き続き検討。 |
医師 | 2024年4⽉1日に上限規制を適用。ただし、具体的な上限時間等については、医療界の参加による検討の場において、規制の具体的あり方、労働時間の短縮策等について検討。 |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | 2024年4⽉1日に上限規制を適用 |
新技術・新商品等の研究開発業務 | 医師の面接指導(※)、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で、時間外労働の上限規制は適用しない。ただし、時間外労働が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする |
以上の事業については法改正適用猶予・除外の対象であるため、就業規則に明確に記載しておく必要があります。
6.月60時間を超えた残業代の割増賃金率を50%にする
法改正前は、月60時間を超える残業の割増賃金率は、大企業が50%、中小企業が25%となっていました。
企業の規模による残業の割増賃金率の格差をなくすため、改正後には中小企業も50%に引き上げられます。
具体的には、60時間以下の残業は25%であり、60時間を超える残業は50%になります。
これからは中小企業でも、上記の旨を就業規則に明記しなければなりません。
働き方改革改正に合わせた就業規則の6つの見直し方
前述した働き方改革改正に合わせ就業規則を見直す必要があります。
なぜなら、働き方改革関連法により、労働形態が大きく変更される場合があり、それらを従業員に認知してもらうため就業規則を見直す必要があるからです。
ここでは、それぞれの見直し方について詳しく解説します。
1.有給休暇日数の把握と規則への明記
改正前の就業規則は、有給休暇を年5日は取得するという義務がなかったため、年5日の年次有給休暇取得の義務化に対応していません。
法改正に伴い、年5日の年次有給休暇取得を義務化に対応した就業規則を設ける必要があります。
具体的には、基準日当付与規定や年次有給休暇の管理表などの導入です。
就業規則を見直すうえで、基準日を4月1日に統一するほか、年次有給休暇の取得日数を正確に把握する必要があります。
見直すべき就業規則は次の通りです。
- 基準日等付与規定の設定
- 時季指定に対する有給休暇日数の明記
- 計画的付与に関する労使協定の締結
- 年次有給休暇管理簿やシステムの導入
2.システム導入や産業医への報告義務の検討
労働時間の把握方法が以前と異なり、裁量労働制適用者や管理監督者などの労働時間も把握しなければなりません。
また、労働時間は客観的な方法で把握しなければならないため、就業規則の労働時間の把握方法を見直す必要があります。
具体的には、勤怠管理システムでの労働時間の把握の規定や産業医への報告義務などの就業規則を設けます。
勤怠管理システムを導入することで、労働時間をタイムリーに管理できるようになります。
さらに、産業医への報告義務を設けることで、労働者の健康状態を正確に把握できるでしょう。
見直すべき就業規則は次の通りです。
- 労働時間の客観的把握の規定
- 産業医への報告義務規定
- 医師による面接指導規定
3.高度プロフェッショナル制度の対象者を絞り込む
高度プロフェッショナル制度の新設により、対象者を明確化にする必要があります。
職種や対象者の範囲のほか、同意規定を就業規則に追加しましょう。
また、高度プロフェッショナル制度の導入には、労使委員会を設置しなければなりません。
以下のように就業規則を見直し、法定労働時間を超過した場合の医師への報告や面接指導を徹底しましょう。
- 対象職種・対象者の明確化
- 対象者の同意規定
- 遵守した休息の規定
- 深夜労働の制限規定
- 医師への報告や面接指導規定
4.勤務間インターバル時間の規定を設ける
勤務間インターバル時間を設定するかどうかは努力義務ですが、導入する場合には就業規則の見直しが必要です。
具体的には、休息時間の範囲やインターバルが取れなかった場合の対策規定を追加しましょう。
インターバル時間をルール化すると、一定の休息時間を取らなければならないため、長時間労働の防止につながります。
また、インターバルが取れなかった場合の対策規定により、休息が十分ではない労働者を把握できるため、従業員の健康状態をより適切に管理できます。
労働者が休息時間を順守するよう、指導を徹底することも忘れないようにしましょう。
勤務間インターバル時間の設定で見直すべき就業規則は次の通りです。
- 休息時間の明確化
- インターバルが取れなかった場合の対策規定
5.時間外労働のルール化と環境整備
時間外労働の上限が原則化されたことにより、時間外労働の上限を設ける必要があります。
具体的には、月45時間・年360時間の時間外労働上限規制や、臨時的な特別の事情への対策規定などを就業規則に明記しましょう。
また、勤怠管理システムの導入により、効果的に労働者の労働時間を把握できます。
次の内容を就業規則に盛り込み、対応を行いましょう。
- 時間外労働上限規制
- 臨時な特別の事情への対策規定
- 勤怠管理システムの導入
- 36協定に関する規定
- フレックスタイム制の可否
- 変動労働時間制の可否
6.月60時間を超えた残業代の割増賃金率を50%にする
中小企業は、月60時間を超える残業に対して、割増賃金率を従来の25%から50%に引き上げなければなりません。
同時に、就業規則に記載されている割増賃金率に関する見直しが必要です。
この改正では、労働時間を正確に把握することが重要になります。
この改正で見直すべき就業規則は次の通りです。
- 労働時間の把握規定
- 基準日等付与規定
就業規則の変更方法
就業規則の変更方法は次の通りです。
- 労働組合から意見を収集する
- 労働基準監督署に変更届け出をする
- 変更内容を周知する
手順を理解することで、スムーズに就業規則の変更が可能になります。
それぞれの手順を詳しく解説します。
手順1.労働組合から意見を収集する
労働者の過半数で構成された労働組合から意見を収集します。
労働組合が存在しない場合は、労働者の代表する者から意見を収集します。
収集する理由は労働基準法第九十条にて定められています。
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
引用:労働基準法|e-GOV
意見書にまとめる際は、労働者代表の記名押印または署名が必要です。
手順2.労働基準監督署に変更届け出をする
続いて、変更した就業規則を労働基準監督署に提出します。
変更届けが必要な理由は、労働基準法第八十九条にて定められています。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
引用:労働基準法|e-GOV
変労働者代表の記名押印または署名がある意見書を添付し、労働基準監督署に変更届け出を行います。
手順3.変更内容を周知する
労働基準監督署に変更届けを提出した後は、変更内容を周知しなければなりません。
周知が必要な理由は、労働基準法第百六条にて定められています。
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
② 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。
引用:労働基準法|e-GOV
就業規則の変更を周知する方法は次の通りです。
- 常時各事業所の見やすい場所に提示し、または備え付けること
- 書名を労働者に交付する
- デジタルデータとして記録し、労働者がいつでもアクセスし閲覧できるようにする
常時各事業所の見やすい場所としては、休憩スペースやトイレなどです。
証明を労働者に交付する場合は、就業規則のコピーを労働者に渡すようにしましょう。
また、パソコンなどのデジタルデータとして記録する場合は、アクセス権限を設け、外部への漏洩を未然に防ぐようにしましょう。
就業規則変更は全体に周知されることで初めて認められます。
一部の労働者のみや口頭での説明のみでは周知したことにならないため、注意してください。
就業規則変更の注意点
就業規則を変更する際の注意点は次の通りです。
- 事業所単位で意見書を作成する
- 変更には合理性が必要
- 管理監督者が労働者代表になるのは不可
- 法や時代の変化に合わせた微調整が必要
就業規則の変更は法に関わる重要な作業だからこそ、注意点をよく理解したうえで、ミスを未然に防ぎましょう。
それぞれの注意点を詳しく解説します。
1.事業所単位で意見書を作成する
就業規則変更の際、必要になる意見書ですが、事業所単位で作成しなければなりません。
事業所とは、管理監督者や出向中の労働者、パートなどを含む労働者が常時10人以上在籍している場所を指します。
一方で、派遣された労働者については派遣元の労働者として数えるため、含まれません。
2.変更には合理性が必要
就業規則の変更には合理性が必要です。
この合理性は、事業規則変更後に労働者への不利益の程度や事業規則の内容で判断されます。
就業規則変更の合理性は、届出書を提出した労働基準監督署により、労働契約法10条に則って判断されます。
もし就業規則の変更によって、労働者が受ける不利益が大幅に増加したり、変更する必要性が薄いと判断されたりすると、届出書が受理されない可能性があるので注意が必要です。
3.管理監督者が労働者代表になるのは不可
管理監督者が労働者代表になることは原則的にできません。
なぜなら、就業規則の変更では労働者の意見を重要視するため、労働者を管理する管理監督者は不適格だとされています。
また、労働基準法施行規則第六条の二でも定められています。
第六条の二 法第十八条第二項、法第二十四条第一項ただし書、法第三十二条の二第一項、法第三十二条の三第一項、法第三十二条の四第一項及び第二項、法第三十二条の五第一項、法第三十四条第二項ただし書、法第三十六条第一項、第八項及び第九項、法第三十七条第三項、法第三十八条の二第二項、法第三十八条の三第一項、法第三十八条の四第二項第一号(法第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)、法第三十九条第四項、第六項及び第九項ただし書並びに法第九十条第一項に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
引用:労働基準法施行規則|e-gov
4.法や時代の変化に合わせた微調整が必要
就業規則は、法や時代の変化に合わせて変更させるのが重要です。
なぜなら、働き方は法や時代により変化していくものだからです。
具体的には、以前までは労働者を長時間働かせる企業も少なくありませんでしたが、近年過労死や健康面の影響により長時間労働が厳しく取り締まられています。
労働時間の客観的把握や時間外労働の上限規制などの取り組みが必要でしょう。
就業規則を柔軟に調整・改善することで、より働きやすい環境を構築できます。
まとめ:働き方改革法改正で対応するべき就業規則を理解しよう
本記事では、働き方改革により就業規則がどう変わるのか影響する法改正や変更方法を解説しました。
働き方改革関連法により変わった就業規則のポイントは次の通りです。
- 年5日の年次有給休暇取得を義務化
- 労働時間の把握方法の見直し
- 高度プロフェッショナル制度対象者の明確化
- 勤務間インターバル時間の設定
- 時間外労働の上限が原則化
- 月60時間を超えた残業代の割増賃金率を50%にする
働き方改革に合わせ就業規則を見直すことで、労働者の健康管理や労働時間の管理ができるようになり、多様な働き方につながります。
働き方改革に合わせた適切な就業規則を作成するためには、プロジェクトを立ち上げたうえで、適切に課題を抽出しなければなりません。
当社ビーイングコンサルティングは、数々の企業でプロジェクトマネジメントを成功に導いてきたプロフェッショナルです。
働き方改革を促進するプロジェクト立ち上げを検討されている方は、プロジェクトマネジメントのポイントについてまとめた以下の資料をご覧ください。