TOC(制約理論)

TOC(Theory of Constraints:「制約理論」)は、『どんなに複雑なシステムでも、常に、ごく少数の要素に支配されている』という仮定から出発した包括的な経営哲学です。ここでいうシステムは、会社や部門、行政、病院、学校といった組織を指します。そして、「ごく少数の要素」は、システムの制約または制約条件と呼ばれ、TOCの名前の由来になっています。

TOCはこの仮定に基づいて、『組織のパフォーマンスは、制約にフォーカスして問題解決に取り組めば、最も小さな変更と努力で短期間に最大限改善する』と主張します。これは制約以外を改善しても、組織として達成可能なパフォーマンスは高まらないということです。TOCでしばしば、制約を「レバレッジポイント」と肯定的に呼ぶのはそういうことからです。

この考え方に従って、TOCは制約にフォーカスして組織を改善し続けるためのフレームワークを提供します。また、代表的な事業環境(プロジェクト、生産、サプライチェーンなど)には、それぞれの制約条件に合わせた汎用的で実務的なソリューション(アプリケーション)があります。それらは、TOCが始まって以来、多くのコンサルタントによって世界の企業や組織で実際にインプリメントされ有効性が実証されており、極めて信頼性の高いソリューションです。

ですから、TOCの標準的なソリューションの想定とは異なる環境下でも、標準のソリューションを組み合わせてカスタマイズすることで、最適なソリューションの構築が可能になります。

TOCの視点

  • 組織をシステムとして捉える
  • 制約を特定しそれ以外と区別する
  • コストワールドとスループットワールド
  • 5段階集中プロセス
  • 思考プロセス

▶組織をシステムとして捉える

TOCの全ソリューション(アプリケーション)の指導原理は、次のとおり非常にシンプルです。
どんなに複雑な組織でも、常に、ごく少数の要素に支配されている

下図をご覧ください。組織を「バラバラな個々の要素の集まり」(システムA)と考えると、制約の概念は生まれません。組織を「相互に関係し依存しあう要素からなる一体のシステム」(システムB)と捉えることで、はじめて制約という概念が誕生するのです。

システムA
システムB

組織は、組織固有の目的を持ちます。また自身と外界を隔てる境界を通して外部と常に影響し合います。ここで重要になってくるのは、組織においてはどのメンバーの活動と結果も、他のメンバーの活動と結果に依存あるいは影響を及ぼすということです。組織としての目的と目標を達成するにはこれは無視できない重要な要素です。

たとえば、プロのフットボールチームは一つの組織で、その目的は試合に勝ちシーズン優勝することです。仮に自分の成績だけ考えてプレーする選手がいたらどうなるでしょう?おそらく、タッチダウンまでボールを確保できず、相手の攻撃も阻止できません。どれほど優秀な選手を集めても、各人がバラバラに自分の成績だけに集中していてはダメです。必要な役割を担う個々の選手の動きが連携しないと勝てないのです。

ゴールドラット博士は、著書「The Goal」(「ザ・ゴール」 ダイヤモンド社)と「The Haystack Syndrome」(「ゴールドラット博士のコストに縛られるな!」 ダイヤモンド社)の中で、ひとつの組織を一本の鎖(または、鎖がネット状に結合した格子)に喩えて、制約の概念を直感的に示しました。

鎖の強度は最も弱い環=制約(条件)で決まる

鎖を構成する1つひとつの環は、組織の構成メンバー(人、設備、部門、工場、サプライヤー等)あるいはプロセスや成果物(製品やサービス)です。その他に、組織内の活動を制限または促進する方針やルールなど無形の因子もあります。

組織が目的や目標を達成するためには、すべてのメンバーの活動と結果の連携が必要であることをふまえれば、上図のとおり、組織が目的や目標をどこまで達成できるかは、ごく少数の弱い要素により決まるというのは当然のことです。

工場生産を例にとります。制約以外のリソース(稼働率や生産性)を高めても、工場全体の生産能力は制約の能力を超えて高まることはありません。もちろん、変動に対する備えとして一定の余剰能力は必要です。だからといって、制約を強化することでその分全体が強くなるかと言えば、必ずしもそうではありません。なぜなら、制約が一定以上強くなると、それはもはや制約ではなくなり、別のところに制約が移ってしまうからです。

組織には、人や設備、工程、部門といった物理的要素間関係だけでなく、そこで生じる様々な現象や人間行動に原因-結果の関係が存在します。たとえば、あるよくない現象(問題)が起きたら、それは別の1つ以上の現象や問題の結果です。こうして原因-結果の関係を掘り下げていくと、大部分の問題の発生源になっている根本の問題(TOCでは「中核問題」と呼ぶ)に辿りつきます。

通常、問題の大部分はこの「中核問題」が表面化した「症状」です。つまり、「中核問題」を解決すれば大部分の問題が解消するのです。組織のパフォーマンスを大きく阻害している問題を解決しようするとき、まさにこの中核問題が「レバレッジポイント」になる制約です。「3期連続利益が低下している」等の組織の存続に関わるような問題も「症状」であり、その根底にある中核問題こそがその組織の制約条件です

80%の結果は20%の寄与による』というよく知られた「パレートの法則(80: 20の法則)」がありますが、博士は、要素間の依存性が高く変動が大きな環境では、1000:1、つまり、全体の0.1%が結果の99.9%を決めると言及しています。一般的な組織は、相互依存する多くの要素からなるうえ、不確実性の高い業務環境にあるため、まさに全体の0.1%くらいごく少数の要素にフォーカスしなければならない環境にあります。

▶制約を特定しそれ以外と区別する

これまで述べたとおり、TOCが他の経営改善手法と決定的に異なる点は、制約とそれ以外(非制約)の区別であり、TOCの最も重要なメッセージは、『制約と非制約の区別を欠いたいかなる努力も決して実を結ばない』というものです。非制約は制約に比べて重要でないという意味ではありません。システムの大部分が非制約であるなかでシステムのパフォーマンスを最大限発揮するには、それらを区別して扱わなければならないという意味です。

ゴールドラット博士は、著書「The Haystack Syndrome」(「ゴールドラット博士のコストに縛られるな!」ダイヤモンド社)の中で、制約と非制約の区別を欠いた意思決定が組織全体にいかに大きなダメージを与えるか、非常にシンプルな思考実験とクイズを用いて丁寧に解説しています。

また、「制約が別のところに移ると、システムは以前と全く別ものになり、古い方針自体が制約になる」とも強く警告しています。なぜなら、制約と非制約を前提にした以前の方針やプロセスをすべて見直さなければならなくなるからです。そのことは、TOCの「継続的改善プロセス(POOGI:Process of Ongoing Improvement)」の基本的なフレームワークである「5段階集中プロセス(5Focusing Steps)」と「思考プロセス(TP:Thinking Process)」が、「制約を見つける」あるいは「何を変えるか?」を最初のステップに位置づけ、そこに繰り返し立ち帰る姿勢に明確に表現されています。

たとえば、工場の生産能力が需要を上回っているのに、以前の制約(工場のリソース)をフル稼働させ続けたらどうなるでしょう?売れない在庫の山ができるだけです。受注を増やしてその余剰能力をお金に変えなければ、会社(工場)の業績に貢献できません。つまり、制約である市場を最大限活用できる(もっと多く注文をもらえる)方法を考えることが重要なのです。

▶コストワールドとスループットワールド

組織を鎖に喩えると、制約と非制約を区別することは、環と環の相互依存を重視することであり、「強度で鎖の価値を測る」ことです。一方、制約と非制約を区別しないこと、環と環の間の相互依存を無視することであり、「重量で鎖の価値を測る」ことです。システム全体の改善を考えるとき、この測り方の違いは決定的で、多くの場合、一方で是とすることが他方では否となります。

重量は足し算です。重量を鎖の価値と考える世界では、どの環を重くしても、大小関係なく、全体パフォーマンスの向上(重量の増加)に寄与します。ここではどの環も等しく、個々のリソースや工程の効率や生産性を追求することに注力します。ここは、部分の改善が全体の改善に等しいとする世界です。この世界観を「コストワールド」と呼びます。

一方、強度を鎖の価値と考える世界では、一番弱い環を見つけ、その負担を一部肩代わりしない限り、そこだけを強化しても全体パフォーマンスの向上(強度の増加)には寄与しません。この世界では、部分の改善が必ずしも全体の改善と等しくないのです。制約以外では部分の改善が全体の改善に等しくなく、この世界観を「スループットワールド」と呼びます。

この「コストワールド」と「スループットワールド」という表現は、コスト会計が「コストの削減」を第一とすることに対して、TOCが「スループットの増大」を第一とすることに由来するものです。

▶5段階集中プロセス

主に物理的な制約が業務の流れ(TOCでは「フロー」と呼ぶ)を制限することで組織のパフォーマンスまでも制限していると仮定してください。下図はこの制約にフォーカスした業務プロセスの改善で滞っているフローを加速しようとする、継続的改善プロセス「5段階集中プロセス」を示したものです。

5段階集中プロセス

以下、小説「The Goal」に登場するユニコ社のベアリントン工場の話をベースに、各ステップを簡単に説明します。

「The Goal」の場合

『ステップ1「制約を見つける」ではフローを最も遅くしているところを探します。ベアリントン工場の最初の制約は、熱処理とNCX-10というNCマシン(加工に関する全情報を数値信号で与えるようにした工作機械)の2つでした。その後、このステップ1を繰り返す度に、制約は「資材の投入方式」、「市場の需要」へと移っていきました。』(*1)

制約を見つけたら、次はステップ2「制約を最大活用する方法を決める」です。

『ベアリントン工場では労働組合と交渉し、制約工程は昼食休憩中も稼働するようにしました。また、品質検査を制約工程の前に置いて、不良品が制約に渡らないようにして制約の時間の浪費を防止しました。熱処理については、炉に入れるとき複数のオーダーを纏めることを許し、段取り換えの回数を減らして段取り時間を短縮しました。』(*1)

非制約で可能な仕事は非制約に回し、制約は制約にしかできない仕事に専念させるべきです。なぜなら、その分全体のフローが大きくなるからです。
制約を最大活用する方法が決定できたら、次はステップ3「制約以外のすべてをステップ2の決定に従属させる」です。これは、制約(と市場)が要求するものが必要なタイミングで届くように、非制約すべての活動を制約のペースに同期させることです。

『ベアリントン工場では、部品が制約を通るか否かで赤と緑の札をつけて、制約を通る部品を優先させたり、非制約の移送バッチを小さくしたり、資材の投入方式を変更したりしました(赤と緑の札は無い方がよいと後日判明し、廃止)。』(*1)

ここまでは、投資なしに現状のまま最大のパフォーマンスを引き出せます。が、制約を強化しない限りパフォーマンスが改善しなくなった時点でいよいよ制約に投資します。それがステップ4「制約を強化する」です。

『ベアリントン工場では、資材の投入システムのプログラムを改造したり、効率が悪く使われずにいた旧式のNCマシンをオーバーホールしてNCX-10と一緒に使いました。旧式のマシンが加わりNC工程の効率は低下しましたが、制約の能力は増大しました。また、新しく雇ったオペレータの給料分固定費(TOCでは「業務費用」と呼ぶ)は上昇しましたが、利益の増加で十分カバーできました。』(*1)

制約を強化できたら、ステップ5「最初のステップに戻って、新しい制約を見つける」です(ここでは、惰性で制約を発生させないよう十分注意します。)。

『ベアリントン工場では、仕掛りが激減し、リードタイムが大幅に短縮して、市場の需要を十分満たせるだけの非常に大きな余剰能力が生まれ、制約は市場に移りました。』(*1)

小説「The Goal」の手法は、その後バッファ管理(BM)というシンプルな優先順位付けシステムと組み合わさって、ドラム・バッファ・ロープ(DBR)と呼ばれる受注生産向けのTOCの標準アプリケーションへと進化しました。

おそらく、従来の改善プロセスと大きく異なる点は、ステップ3「制約を最大活用する方法に制約以外のすべてを従属させる」ことです。このステップを実行すると、非制約はフル稼働せず時には余裕があるはずです。実は、制約の時間を浪費せず、最大活用するためには、それこそが必要なことです。

『ベアリントン工場の場合、制約はもちろん、非制約も遊ばせないように架空のオーダーを投入して、在庫を増やしていました。その結果20%もの余剰能力があるのに気づかないでいたのです。本来は、能力不足で断っていた条件の仕事を受注するなどして、その余剰能力をお金に変えられたはずです。』(*1)

つまり、非制約は常時フル稼働してはいけなかったのです。小説「The Goal」の中でも、『皆が常に忙しく働いている工場は、実は非常に非効率だ』と書かれています。

『ベアリントン工場では、非制約は、仕掛りが届くまで待機し、届いたらできるだけ早く着手して、終わるまで全力で実行し、終わったら直ぐ次に渡すことにしました。このような振る舞いを「リレーランナーの行動倫理」と呼びます。その結果、現場にあるものはすべて必要なものだけになり、仕掛りが激減し流れも大幅に速くなったのです。』(*1)

*1:「The Goal」より引用・要約

▶思考プロセス

5段階集中プロセスを何周か回すと、制約が移動する度にフローが大幅に改善し、大きな余剰能力が生まれるはずです。そうすると、組織パフォーマンスを制限する制約は、人や設備能力の不足といった物理的な制約から、市場の需要(市場制約)や運用方針(方針制約)といった非物理的な制約に変わります。

1.フォーカスがオペレーションの問題でなくなったら、どのように制約を見つけるのか?
2.制約を最大活用するとはどういうことか?
3.非制約を従属させるとはどういうことか?
4.制約を強化する効果的な方法をどのように見つけるか?

非物理的な制約に適切にフォーカスするには、これらの4つの疑問に正しく答えて、何をすべきで何をすべきでないかを明確にすることが必要です。継続的改善プロセスのもう一つのフレームワークである「思考プロセス」(下図)は、これらの4つの疑問に戦略的観点から答えるものです。

思考プロセス

「何を変えるか?」

ここでは組織のパフォーマンスを制限する一番根源の問題「中核問題」が何かを突き止めることから始めます。

ベアリントン工場の場合、短期間で工場の大きな余剰能力を収益に変えなければなりませんでしたが、それを阻害していたのが「売価が製造コストを下回ってはならない」というコスト会計の常識でした。つまり、「何を変えるか?」の答えは、コスト会計をベースとした営業方針でした。

「何に変えるか?」

「中核問題」解決の方向性を定めます。制約が市場に移り、工場に余剰能力がある間は、注文を受けて増加するコストは原材料費(他に輸送費や外注費)だけです。なぜなら、人や設備を増やしたり時間外稼働は必要なく、固定費や投資が増えないからです。売価から外部に支払うお金を引いた粗利(TOCでは「スループット」と呼ぶ)が1円でもプラスなら、その分会社の利益が増えます。つまり、「何に変えるか?」の答えは、コスト第一から「スループット第一」に考え方を変えることでした。

「どのようにしてその変化を起こすか?」

この答えは、定めた解決の方向性を具体的な「実行のロードマップ」にすることです。実行の副作用と実行を阻害する障害を見つけて、それを克服するためのアクションとその実行順序を決めていきます。

ベアリントン工場の場合、スループットは十分確保した価格条件で、これまでなら断っていたような安価な大型案件を受注できました。さらに、国内より低い価格でも、他社に真似できない圧倒的な短納期を武器に、過剰な価格競争に巻き込まれない条件で年単位の長期の大型案件を受注し、国外市場に打って出る足掛かりとしました。

こうしたフローの大幅改善で獲得した新たな競争力を、どのように長期間持続し、そして収益に変えてゆくかという、より戦略的な面にフォーカスが移ります。「思考プロセス」は、そういう問題を扱うためのツールです。

思考プロセスには、「CRT:現状ツリー」、「EC:対立解消図」など、上記の3つのステップを実行するための思考ツールが提供されています。また、「どのようにしてその変化を起こすか?」の答えである「実行のロードマップ」は、「S&T(戦略・戦術)ツリー」という階層的なツリーで表現できます。CCPMなど、TOCのソリューションはすべてS&Tツリーで実際に表現されています。