働き方改革に求められる生産性の向上 その1 ~長年未解決の社会的課題~

 「働き方改革」に関連するニュースが連日のように流れています。その内容は、長時間労働の是正、同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善、女性や高齢者の労働参加拡大、外国人労働力の受け入れ、在宅勤務に代表されるテレワークなど多岐に渡っています。

 長時間労働の是正については、消灯時間を定め半ば強制的に残業できないようにしたり、早朝勤務を奨励したり、あるいは、退社から出社までを一定時間以上空ける勤務間インターバル制の導入といった動きも見られます。

 非正規雇用の処遇改善、女性、高齢者、外国人労働者の活用、テレワークについても、それぞれ難しい問題もありながら、産学官で制度の見直しが議論されているようです。

 以前とは異なり、新入社員の過労死が経営トップの引責辞任につながるなど、長時間労働を社会が許さなくなりつつあるようです。そのため、見える形(制度)に早くしたい、しなければならないという点は理解できます。


 一方、働き方を改革するにあたり、本来は決定的な要素であるにもかかわらず、後手に回っているのが「生産性の向上」です。

 なぜなら、生産性を向上させることなく、長時間労働是正のために就労時間を短縮したならば、理屈上、組織のパフォーマンスは低下してしまうからです。

 仮に受注生産型の企業で、1日の労働時間が8時間のところ、社員は1日平均12時間働いていることが常態化しているとしましょう。つまり1日平均4時間は残業時間です。

 長時間労働の是正のため、1日8時間で退社するように制度化した場合、それまで当日の残業時間で処理されていた4時間分の仕事は、翌日に持ち越されます。これを繰り返すと計算上は従来1年間で終えていた仕事が、1年6カ月かかることになります。

 話を分かりやすくするため、全ての労働時間が受注した仕事に使われるとして、製造リードタイムが従来の1.5倍になったとしましょう。これでも従来通りお客様から注文をもらえればよいですが、実際には競争力を失い受注できなくなるでしょう。

 長時間労働の是正と組織パフォーマンスをトレードオフの関係にしないためには、「生産性の向上」が必須になります。


 もっとも、制度化にも生産性を向上させる効果は多少あるかもしれません。半ば強制的にでも退社時刻が決まることで、これまでは時間を気にせず仕事をしてきた人が、退社時間に間に合わるように仕事を段取ることで、生産性向上の意識が芽生えるかもしれません。

 また、上司が帰らないと自分も帰りづらいという雰囲気の職場であれば、上司が早く帰ることで部下も早く帰ることができ、隠れていた“ムダ”な時間が省かれるかもしれません。

 しかし、大半のビジネスパーソンは、時間に気を使いながらも、定時までではとてもこなせない量の仕事を何とか処理するため、残業をせざるを得ない状況にあるのではないかと思います。


 生産性の向上は、全産業、全職種で求められるものですが、現在特に求められているのは、非製造部門と言われています。

 特に、ホワイトカラーの生産性向上に至っては、今に始まったことではなく、これまで何十年も問題提起され続けてきた社会的課題と言えます。しかし残念ながら、今日でも依然として未解決のままと言えそうです。

 10年以上も前の話ですが、トヨタ自動車の方から「工場の生産性に比べ、ホワイトカラーの生産性は高くない。ホワイトカラーの生産性を少なくとも2倍にしたい。その仕組みができたら画期的だ。」と真顔で言われたことがあります。印象的だったので、今でも鮮明に覚えています。

 世界のトヨタですら、ホワイトカラーの生産性を2倍にしたいのであれば、他の企業は、一体どのようなレベルなのだろうとも考えました。
 当時は、儲かっている会社が、常に危機感を持たせるための方便なのではないかとも考えましたが、今にして思えば、正しい現状認識だったのだと思います。

 働き方改革を制度化だけで終わらせず、長年の社会的な課題である生産性の改革レベルの向上にまで、しっかりとつなげていただきたいところです。

(つづく)

シニア・コンサルタント
工藤 崇

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